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ペルソナ3 転生したら犬(コロマル)だった件

作者:hastymouse
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後編

 
前書き
さて後編です。
世界観の維持の為、お互いがあまり情報交換し過ぎないうちに、一気にお開きとすることしました。陽介もガッカリのダメ押しの為、ラストスパートです。 

 
その夜、俺はみんなと一緒に、タルタロスと呼ばれている塔へ向かった。
寮を出るとき、俺は首輪にリードを付けられてしまった。
俺は嫌がったのだが、
「お前は今、どう見ても犬なんだから、散歩のときにリードをつけるのはマナーなわけよ。誰に見られるかもわからないんだから我慢しろ。」
と伊織に言われて、あきらめて紐で繋がれるしかなかった。
しかし、小学生の天田に引かれて歩いていると、情けなさが半端じゃない。
しかも追い打ちをかけるように、伊織が「リードで引かれて歩かされてるってどんな感じだ?」とか「桐条先輩とかに引いて欲しいんじゃないか?」とかひたすら茶々を入れてくる。
悔しいが犬だから言い返すこともできない。でもまあ、そのあと伊織は岳羽さんに「馬鹿なこと言ってんじゃない!」ときつく怒られてたから、いいんだけどね。そのガッカリっぷりには俺も負けるよ。
そして深夜0時。
話に聞いた通り、全ての照明が消え、人間は皆、棺に姿を変える。
ここのメンバーは全員が影時間に適性がある希少な能力者だということだ。俺も棺に変化するようなことはなかったが、影時間に適性があるのか、それともコロマルの体にいるせいだろうか。
やがてその異常な光景をの中、タルタロスにたどり着いた。天まで届くその塔を見上げて俺は驚愕した。尋常ではない非現実感だった。こんなものが影時間にだけ存在するなんて、とても信じることができない。
一同に連れられて、塔のエントランスホールに入る。
俺の知っているテレビの中の世界が、現実にあふれ出したような奇妙な光景の場所。
俺は絶句したまま、周りを見回した。
「昨夜、コロマルが攻撃を受けて気を失ったフロアから再度探索してみましょう。」
リーダーと呼ばれている、前髪を長く垂らした男が言った。
探索メンバーはそのリーダーと、犬語通訳のできるアイギス、そして荒垣と俺だ。
他はバックアップとして、いざというときに備えて待機するのがルールらしい。
俺はアイギスさんから短剣を渡された。普段、俺が戦闘で使っている武器に似ていたが、コロマルはこれを口にくわえて戦っていたのだという。
『忍犬かよ!』
俺はツッコミを入れたが、誰も理解してくれる人がいなくて寂しい空気が流れた。
正直、犬として初心者の俺が、これを咥えて戦うなどというそんな器用なことはとてもできそうにない。
俺がそれをアイギスさんに伝えると、
「それなら俺も一緒に行こう。コロマルは戦わずに後からついて来ればいいさ。」と真田が名乗りを上げた。
メンバーが決まった後、転送ポイントを利用して迷宮に入る。
攻略済みの迷宮のポイントに飛べる仕組みらしい。いよいよ探索の開始だ。
それはテレビの中で探索する俺たちの雰囲気によく似ていた。
山岸さんのナビに従い、徘徊するシャドウをかわしながら慎重に進んでいく。
しかしついにかわし切れず、シャドウとの戦闘となった。
リーダーの男が銃を抜く。射撃するのかと思ったら、そのまま自分の頭に向けた。『正気か!』思った瞬間、「ペルソナ!」という声とともに男の背後に分身が現れた。
こいつら、俺たちと同じ、ペルソナ使いか!
考えて見ればシャドウと戦っているという時点で、当然予想できたことだ。あんな怪物を相手に、普通の武器だけで戦うというのは不自然だ。
だが驚きはそれだけでは止まらなかった。
「掃射!」というかけ声とともに、アイギスさんが両手から機銃を発射したのだ。
(なんだあれ・・・人間離れしてる・・・っていうか人間じゃない?)
俺は度肝を抜かれて、ポカンと口をあけたまま彼らの戦いぶりを眺めていた。
真田のペルソナが電撃を放ち、荒垣がバス停を振り回す。
なぜバス停なのか、という疑問も湧いたが、もう驚きすぎていてツッコミが追い付かない。
瞬く間に4体のシャドウが殲滅された。
(こいつら、強ええ・・・)
あっけにとられている俺に、「行くぞ、コロマル」と真田が声をかけてきた。
俺は慌ててアイギスさんに並ぶと声をかけた。
『あのー、アイギスさん? アイギスさんって人間じゃないの?』
「さきほど申し上げました通り、私は対シャドウ特別制圧兵装 七式。シャドウ殲滅の為に作られた兵器であります。」
『ええー!! それってつまり、ロボットっていうこと?』
確かに話をしていて少し様子がおかしいとは思ったが、それでも人間にしか見えなかったこの美少女が、実はロボットだったとは・・・。現代の日本って、こんなロボットを作れる技術があるのか?
それにしても、最先端技術で両手にマシンガンを備えた金髪美少女ロボットを作るって、果てしなくテクノロジーの使い方を間違えている気がする。
どうにも理解が追い付かない。まあ、うちにも理解不能な着ぐるみがいるけど・・・
(それにしても直斗の秘密結社改造ラボといい、なんだか最近はロボットづいてるなあ。)

その後は、数回の戦闘があったものの、順調に迷宮の攻略を進めていった。
「次のフロアに進みましょう。」
しばらく探索し、階段を見つけたリーダーがそう言ったときだった。その階段の上り口をふさぐようにして、奇妙な針金細工のようなシャドウが数体現れた。線で構成された奇妙な体をうねらせながら、こちらに迫って来る。
「あいつは・・・!」真田が叫ぶ。
「どうした、アキ」荒垣が問いかける。
「昨夜、戦ったやつだ。気をつけろ。おかしな精神攻撃を仕掛けてくる。昨夜はとうとう倒せずに逃がしてしまった。コロマルもあいつにやられたんだ。」
「なに?」荒垣の視線が鋭くなる。
これが問題の敵か。俺も緊張して身構える。
「行きます。」アイギスさんの銃撃で戦闘開始となった。
残る3人も銃型の召喚器を手にする。
その時、シャドウを中心に奇妙な波動が広がった。
(なんだ?)
次の瞬間、リーダーの男が手に持った片手剣でいきなりアイギスさんに切りつけた。咄嗟に受け止めるアイギスさん。一方、荒垣がいきなり真田に頭突きを食らわせた。突然に始まった同士討ち。
みんな「混乱」している。これはシャドウの精神攻撃か。
このままじゃヤバイ! 下手をすれば全滅だ。俺も黙って見ているわけにはいかなくなった。
俺は短剣を咥え、シャドウに向けて走った。
一か八か飛びかかるが、やはり慣れない態勢ではうまく相手に切りつけることができず、逆に叩き伏せられてしまった。
殴り合う真田と荒垣。アイギスは混乱していないようだが、リーダーからの攻撃をかわすのに手いっぱいだ。完全に手詰まりだ。
なんとか起き上がったものの、シャドウが全て俺に向かってくる。
『ちくしょう。ペルソナー!』
切羽詰まった俺の叫び声は遠吠えとなった。そして・・・
その声に応えるかのように、俺の体からペルソナが浮き上がる。
俺が犬になったとしても、ペルソナの姿は変わらなかった。ペルソナは心の力。体が犬でも心が俺なら、俺のペルソナはジライヤだ。
疾風攻撃がシャドウに襲い掛かり、衝撃で後退するシャドウ。
『行っけぇ、ジライヤ!』
連続でペルソナを呼び出して、さらに疾風攻撃で追撃する。
「セイリュウ!」
声がして振り向くと、リーダーの男が正気に返ったらしく、ペルソナを呼び出していた。
「パラディオン!」
さらにアイギスさんがペルソナを呼び出す。
『ロボットがペルソナ?』
俺は声を上げた。しかし驚くことが多すぎてさすがにマヒしてきた。いちいち驚いていてはきりがない。ともかく今はこいつらを倒すことが先決だ。
ここからが反撃だ!
俺たちの連携攻撃で、シャドウが次々消滅する。
やがて、荒垣と真田も正気に戻って参戦してきた。
敵は残り一体。
俺が再度ペルソナを呼び出そうとしたとき、シャドウから得体のしれない波紋が広がり、突然に目の前がぐるぐる回り出した。
あっ、これ精神攻撃だ。やばい。
俺は必死に意識をつなぎ留め、敵に飛びかかろうとして・・・そして

「しっかりしろ。」
という怒声とともに、激しく頬を張られた。
「いへえ!」
はっとして目を見開くと、目の前に相棒がいた。周りには見慣れた八十稲葉の仲間たちがいる。
「はえ? はいほぉう・・・。」
俺は気の抜けた声を洩らし、そこで短刀を口にくわえていることに気づいて、慌てて吐き出した。
両手をみる。人間の手だ。俺は自分の体を見回し、顔をなでまわした。
「やった、人間に戻ってる。やったぜ!。」
喜びのあまり、俺は歓声をあげる。
(やっと自分の体に戻ることができた・・・いや、それとも犬になっていたってのは夢だったのか?)
そう考えながらふと気づくと、みんなが複雑な表情を浮かべ、距離を置いてこっちを見ている。
俺は笑顔を硬直させた。
「えっ? あれ? ・・・な、何があったのかな・・・」
目の前の誰一人、返事をしない。俺は急に不安になってきた。
「なんだよー。なんか言ってくれよ。俺、どうしてたんだ?」
気になって、俺は大げさに身振りをしながらみんなに訴えた。
「どうやら正気にもどったようだな。」
軽くため息をつくと相棒がそう言った。
【先輩は、赤いロボットみたいなシャドウの攻撃を受けて、その後しばらくおかしくなってたの。】
りせ の声がした。
「え・・・おかしくって、どういうこと?」
俺は状況を理解できずに重ねて聞く。
「急に短刀を口にくわえて、四つん這いで敵と戦い始めたんすよ。」と完二が説明する。
「いや、その動きの素早いこと。ほんとに凄かったんすけっどね。ちょっと人間離れしてたっつーか。・・・はっきり言って引いたっす。」
「しかも、その後、花村君が呼び出したペルソナは頭が3つある犬だったの。」
天城がさらに後を続ける。
「あれはケルベロスだな。」と相棒が言った。「しかし陽介に、なぜあんなペルソナが出たんだろう。」
えーと、それってもしかして・・・コロマル?
俺がコロマルの体に入ってたのが夢じゃなかったとしたら、もしかしてその間、コロマルが俺の体に入ってたの?
【花村先輩の大活躍で、見事に巨大ロボットは倒せたんだけど・・・その後も先輩、四つん這いで『わんわん』言ってて、すっかり犬だった。】
りせ が言いにくそうに続けた。
「四つん這いで、舌出してハアハア言ってって・・・やたらじゃれついて来るし・・・見ててホントに情けなかったんだけどね。」
その後、里中が厳しい表情で語る。
「挙句の果てに、つい今しがた・・・みんなの見ている前で・・・そこの柱のところで・・・四つん這いのまま片足を上げて・・・」
えっ・・・なにそれ・・・まさか・・・
里中の指さす柱を見ると、その根本がびっしょり濡れている。
俺は血の気が引いて、頭を抱えた。
相棒が俺の肩にポンと手を載せた。
「うっそーん」
俺は無性に遠吠えをしたくなった。  
 

 
後書き
実は、「月光館学園」の名前を陽介が聞いていて、修学旅行の時に寮を確認に行くエンディングも考えました。
寮はもうすでに取り壊されていて、2年前に寮生が一人亡くなったという話を聞くというエンディング。ちょっと暗すぎて後味が悪いので没となりました。コメディなんだから「うっそーん」くらいで丁度いいですよね。
ということで、今回はこれで完結です。ありがとうございました。 
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