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ペルソナ3 転生したら犬(コロマル)だった件

作者:hastymouse
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中編

 
前書き
犬になったガッカリ王子の続きです。
ひたすら陽介が可哀そうな話なのですが、ひどい目に合う程、陽介の人の良さが際立つ気がするのは不思議なもんですね。いい奴なんで幸せになって欲しいです。
アイギスは、犬と会話できるので便利ではあったのですが、あまり情報開示し過ぎないよう調整するのに苦労しました。それでは中編をどうぞ。
 

 
彼女はアイギスと名乗った。
どうもかなり独特な性格のようで、会話が微妙にズレている。外国人だからだろうか?
出身国をきいたら「屋久島」という答えが返ってきたが、「屋久島」って日本だよな。少なくとも金髪ではないはず。
困ったことに、こちらの言っていることをどこまで理解できているのかがよくわからない。
しかし彼女の説明で、ここが高校の学生寮だということだけはわかった。
それはともかく、空腹で辛い。のども乾いた。しかし、それでもドッグフードを口にすることは、まだプライドが邪魔していてできなかった。
(なんで俺がこんなことに・・・)
本当に泣きたくなってくる。
アイギスさんに頼むと、犬用の器とは別にキッチンからボールに水を入れてきてくれたので、とりあえずのどの渇きはうるおすことができた。
『しかし、腹へったなあ。何か人間の食べるものを食べたいんだけど・・・』
俺が泣きつくと、
「冷蔵庫を確認して来るであります。」
と言って彼女は再びキッチンに向かい、やがて何やら皿にのせて戻ってきた。
「残り物があったようなので、分けてもらってきたであります。」
『ありがてー。』
うれしくなり、自然にしっぽがパタパタと動いた。
しかし、目の前に置かれた皿を見て、俺は硬直してしまった。
その紫色のスライム状の物体は本当に食べ物なのだろうか?
肉や野菜らしきものは入っているようなので食べ物なのだろうが、犬の鋭い嗅覚は料理の芳しい香りではなく、もっと刺激的で危険なものを嗅ぎつけていた。
天城や里中のとてつもない料理を口にした経験があるだけに、頭の片隅でアラートが鳴り響いているのを感じる。
「食べないので有りますか?」
アイギスさんが聞いて来る。
『えーと・・・これ誰が作ったの?』
俺はためらいながら訊いた。
「山岸・・・とメモがついていたので、風花さんだと思われます。」
いや、名前を言われてもわかんないから・・・
『その人、料理できる人? その人の料理、食べたことある?』
俺はしつこいくらいに訊き返す。
「私はありませんが、ときどきキッチンで料理の研究をしているようであります。」
料理の研究・・・という言葉が気になるが、日頃から料理している人なら大丈夫か?
もしかしたら、どこか知らない異国の料理なのかもしれない。まあ、天城や里中みたいな破滅的な奴はそうそういないだろう。
俺は自分を納得させ、覚悟を決めて軽く一口食べてみた。口に入れた途端、得も言われぬ味が脳天を直撃し、俺は卒倒した。
「どうしたでありますか?」とアイギスさんに聞かれても声も出ない。
全身を震わせながら這いずると、ボールに鼻づらを突っ込み、水で口の中を洗い流すように飲んだ。そして息も絶え絶えに倒れこむ。
ここにも破滅的な料理を作る奴がいる。どうして、俺の周りはそんな奴ばっかりなんだ。
「何やってんだ?」
ふいに背後で男の声がした。
「コロマルさんが人間の食べ物を食べたいと言ったので、冷蔵庫にあった作り置きをあげたら、倒れました。」
「おいおい、やたらなものを食わせるんじゃねーぞ。人間と同じ食べものは、犬には体に毒ってこともあるんだからな。」
男が慌てた口調で注意した。
(冗談じゃない。アレは犬だけではなくて、人間も含めた全ての生き物にとって毒だ!)
俺は心の中でツッコミを入れた。
長身の男がしゃがんでのぞき込んでくる。
「大丈夫か? コロ・・・」
強面の顔だが、心配そうな表情を浮かべている。。
(また大丈夫か聞かれた・・・。全然大丈夫じゃねーよ。くそっ!)
あらためて悲しくなってきた。
俺はぐったりしたまま『はらへったなあ・・・愛屋の肉丼が食いてえ・・・』と洩らしたが、その声は情けないクゥーンという鳴き声にしかならなかった。
「空腹でたまらないと言っているであります。」
アイギスが律儀に俺の言葉を伝える。
「ここにエサが出てるじゃないか。」男が言った。
「コロマルさんは昨夜まで人間だったけど、目がさめたら犬だったので、ドッグフードは食べられないそうです。」
いや、アイギスさん、その言い方じゃ、わけわかんないよ。
「ああ? 何言ってんだ? 昨日も今日も犬だろうが。しかも犬なのにドッグフードが食えないってのはどういうこった。」
案の定、男が理解できないと言った様子で聞き返す。
「元人間としてのプライドがあるそうです。」
「なんだそりゃ、昨日やられてからおかしくなっちまったんじゃねえか?」
男が呆れたような声を出した。
「ええと・・・私にもよくわかりません。ただ肉丼というものが食べたいそうであります。真田さんがよく『うみうし』という店で買ってくる、あれのことでしょうか?」
男はため息をつくと、「ちょっと待ってろ」と言ってキッチンに入っていった。
『昨日やられてから・・・っていうのはどういう意味だい?』
俺は男が言っていたことが気になって、アイギスさんに聞いてみた。
「昨日、コロマルさんはシャドウの攻撃を受けて気を失いました。怪我はなかったようですし、気が付いてからは何とか歩いてきたようなので、大丈夫かと判断したのですが・・・もしかすると脳に障害が残ったのかもしれません。」
『それで、みんな「大丈夫か・・」って聞いてくるのか・・・って、あれ?・・・今シャドウにやられたって言った?』
俺は急に体を起こすと、アイギスさんに向き直った。
「はい。コロマルさんは、シャドウとの戦闘で奇妙な精神攻撃を受けたであります。」
『えっ・・・シャドウってあれだよな。テレビの中にいる怪物。』
「テレビ番組ではありません。」
『テレビの中っていうのはそういう意味じゃなくて・・・っていうかテレビの中じゃなかったらどこにいるんだよ。』
聞けば聞くほどわからなくなる。
「タルタロスにいるであります。」
『何それ』
「影時間だけに現れる塔であります。」
『わけわかんねーよ。』
それから繰り返し質問して聞き取ったアイギスさんの説明をまとめると、夜中12時から1時間、普通の人間には感知できない時間があって、その時間にタルタロスという謎の塔が出現するらしい。
その塔はシャドウの巣で、この寮の住人はシャドウと戦いながらタルタロスの探索を行っているということだ。
突拍子の無い話だが、俺たちの事件も突拍子の無さでは負けていない。シャドウが絡んでいるというだけで、常識では判断できない事態であることは間違いないのだ。
彼らの言うシャドウが、俺の知っているシャドウと同じなのかは分からないが、聞いた話ではかなり似た雰囲気の怪物のようだ。
俺たち以外にシャドウと戦っているやつらがいたとは驚きだ。しかし、テレビの中で戦っているわけではないらしい。もしかすると、俺がこんなことになったのも、そのタルタロスが関係しているのではないか?
同じようにシャドウが徘徊する別の場所で、シャドウの攻撃で気を失った俺とコロマル。
共通点といえば共通点と言える。この事態解決の糸口はタルタロスにあるのかもしれない。
『君らは何の目的でタルタロスの探索を?』
「目的はシャドウを殲滅し、人類を脅威から救うことであります。」
『なんだって?』俺は驚きの声を上げた。
「こら、吠えるな。」
叱る声とともに、先ほどの男が戻ってきた。
ものすごくいい匂いをさせている。俺は思わず口から舌を出してよだれを垂らした。
「ほらよ。これなら犬でも食えるだろ。」
目の前に皿が置かれる。
(おおっ!)
皿に盛られていたのは、肉と野菜の「まぜごはん」的なものだった。空腹に耐えきれず、いきなりかぶりつく。
うまーい!!!
とてつもなく旨かった。何で味付けしたのかはよくわからなかったが上品な味だ。ともかく俺は空腹を満たすため、がつがつと食いまくった。
俺のがっつく姿を見ながら「どう見ても犬じゃねーか。」と男が言う。
反論したいが、食べるのをやめられない。こんな見事な料理をこの男が作るなんて、ホントに世の中はわからない。
ようやくひとごこちついてから、『ごちそうさん。めちゃくちゃ旨かったよ。』と礼を言う。
「大変おいしかったそうです。」アイギスさんが通訳した。
「そりゃー良かった。まあ、犬だっていつもおんなじドッグフードじゃあきるよな。」
男が口元に嬉しそうな笑みを浮かべた。
どう説明すれば自分が人間・・・元人間だと信じてもらえるだろう。固有名詞は伝わらない上に、アイギスさんの若干的外れな通訳では何を言っても理解してもらえないような気がする。
『俺もそのタルタロスっていうのに行けないかな。』
俺はアイギスさんに言ってみた。ともかくそのタルタロスを確認してみたい。
元の俺の体が死んでいなければ、もしかすると元の体に戻るヒントがあるかもしれない。
「コロマルさんがタルタロスへ行きたいそうです。」
アイギスさんが律儀に通訳してくれる。
「昨日の今日でか? やめといた方が良くねーか?」
男が心配そうに言った。強面でぶっきらぼうだが、結構優しい性格なのかもしれない。
料理ができたりする意外性とか、完二を連想させるところがある。
『どうしても行きたい。確かめたいことがあるんだ。』と俺は重ねて言った。
「まあ、美鶴やリーダーさんに言ってみるか。」
頭をかきながら、男がそう答えた。

「昨夜のリターンマッチということか。コロマル、男だな!」
短髪でスポーツマンタイプの男が熱い口調で言う。真田という高校3年生らしい、闘志満々で指を鳴らしている
「まあ、コロマルが大丈夫だというのなら、構わないが・・・」
ロングヘアの美女が少し考えながら言った。桐条さんという3年生だ。
アイギスさんに、先ほどの料理の男 荒垣、小学生の男の子 天田、を含めたこの寮の住人全員がロビーに集まっていた。
「それにしても、コロマルが・・・その、自分は人間だって言ってる、っていうのは何なんですか?」
ピンクのカーディガンを着た岳羽さんという女の子が言った。
俺と同い年くらいだろう。アイドルの りせ に引けを取らない可愛らしさだ。ちょっと気の強そうなツンとした感じがたまらない。
俺は彼女を振り向いて、ドキリとして目を見開いた。
俺の位置からだと、すらっとした形のいい足を下から見上げた格好になる。しかもかなりのミニスカートで、太腿からあわやその奥まで覗けてしまいそうだ。
「なんだかわかんねーんだが、コロがアイギスに『自分は人間だ』と言っているらしい。」荒垣がぼやくように言う。
「俺たちと一緒にいるうちに、自分も人間みたいな気がしてきた、ってことなんじゃないっすかねー。」帽子をかぶってあごひげを生やした男 伊織が言った。
「そうではなくて、昨日までは別の人間だったのに、気が付いたらコロマルさんになっていたそうであります。『見た目は犬、頭脳は人間』であります。」
アイギスさんが俺から聞いた話を伝える。
一同が顔を見合わせた。
「なんだそれは・・・。」真田が声を洩らした。
「えっ・・・それじゃあ、犬のコロマルはどうなっちゃったんでしょう。」
天田が心配そうに言った。
「まあ、コロマルがまだ混乱状態にあって、おかしな勘違いをしている可能性もある。」
桐条さんが冷静に言う。
「その原因がタルタロスにあるかもしれないので、行って確認をしてみたいのだそうです。なんでもこうなる前には、自分も仲間と一緒にシャドウと戦っていたとのことであります。」
アイギスさんがさらに説明を続ける。
「タルタロスでか?」桐条さんが訊き返す。
「いえ、テレビの中だそうです。」
再び沈黙。
「なんだあ、それ?」伊織が声を上げた。
「正気の沙汰じゃないな。意味がさっぱり分からない。とても正常とは思えない。」
あきれたように真田も言った。
「おいおい、大丈夫か?コロマル、昨日のショックでおかしくなっちまってねーか?」
伊織が軽い調子で声をかけてきた。
しかし実はその会話の間、俺は岳羽さんの太腿に釘付けになっていた。足を組み替えるしぐさにもドキドキする。もう少し姿勢を低くすれば、スカートの中が・・・
「ちょっ!」
突然、岳羽さんがスカートを押さえて叫んだ。
「どした、ゆかりっち?」
「なんかコロマルがスカートの中を覗き込んでて・・・気持ち悪い。」
やべっ、気づかれた。
俺は焦って視線をはずした。じっと睨みつけてくる岳羽さんの視線に冷や汗を浮かべる。犬だから言い訳もをすることもできない。
しょうがねーだろ。年頃の男子高校生がこのアングルで太腿見せられたら、誰だって釘付けになるだろ。そうだろ、相棒!
「ほ、ほう。犬という立場を利用してスカートの覗き見とは・・・。なかなかやるじゃないの。うらやましいなーこのこの。」
伊織が能天気に茶化してきた。うるせー、だまってろ!
「ばっかじゃないの」岳羽さんが冷たく毒づく。「・・・てか、ばっかじゃないの。」
「2回言うな!」伊織が声を張り上げた。
岳羽さんは叫ぶ伊織の相手をせずに、桐条さんに向き直った。
「せんぱーい、これ、ほんとにコロマルじゃないんじゃないですかねー。なんだかいつもの可愛いコロマルに比べて、ガッカリ感が強いんですけど・・・」
うわあ、またガッカリって言われた。俺ってやつは犬と比べてもガッカリされちまうのか。
さすがにヘコんでしゅんとなる。
「ま、まあ、落ち着け。とりあえず今夜はタルタロスに行ってみようじゃないか。そこで何かわかるかもしれないし、だめならもう少し詳しく調べる方法を考えるとしよう。」
桐条さんが取りなしてくれる。
「そうですね。犬の足ではパソコンのキーボードを使ってもらうのとかは無理かもしれないけど、ひらがなとかローマ字のカードを使えば、どこの誰なのか、名前とか確認することもできるかもしれません。私、少し考えてみます。」
山岸という大人しそうな女の子がそう提案する。こんなおしとやかで真面目そうな感じの子が、あんな破滅的な料理を作るんだからなー。本当に見た目だけでは何も信じられない。
しかし、それにしてもここの女性陣は美人揃いだ。まあ、俺らの仲間の女子も顔だけなら負けてないけど・・・
「それじゃあ、そういうことで、今夜は全員でタルタロスに行きましょう。」
リーダーの男が話をまとめた。
 
 

 
後書き
今回、荒垣にごちそうして欲しかったので、時期的に9月になりました。時期を合わせて、P4メンバーは「秘密結社改造ラボ」の探索です。実は同じ9月にP4メンバーは修学旅行で月光館学園を訪れているのですよね。まあ時間的には2年ずれているんですが・・・。この話を書くとき「月光館」の名前を出すか迷ったのですが、話の展開がややこしくなるのであきらめました。
さて、いよいよ次回で完結です。 
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