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蚊帳釣り狸

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第五章

 蚊帳があるが龍馬はさらにめくり岡田と共に進む、そこにまた蚊帳がありめくろ。それを延々と繰り返すと。
 遂に道に出た、それで龍馬は言った。
「終わったのう」
「うむ、もうな」
「蚊帳はないぜよ」
「よおさんめくったが」
 それでもとだ、岡田は述べた。
「それでもな」
「終わったぜよ」
「一体どれだけめくったんじゃ」
「三十六枚ぜよ」
 それだけだとだ、龍馬は岡田に答えた。
「数えておいたぜよ」
「三十六枚か」
「前に進んでじゃ」
 そしてというのだ。
「それだけめくったぜよ」
「それでそれだけめくって前に進んでか」
「遂に道に出たぜよ」
「狸の化かしに勝ったんじゃな」
「そうぜよ」
 龍馬は岡田に明るい笑顔で答えた。
「わし等は勝ったぜよ」
「そうか、なら狸は今頃」
「悔しがってるのう」
「そうじゃな」
 ここで何処からか舌打ちする音が聞こえた、龍馬はその音を聞いて自分も聞いた岡田に対して話した。
「聞こえたのう」
「ああ、今な」
「狸が舌打ちしたぜよ」
「悔しがってるのう」
「そうぜよ、わし等が勝った何よりの証ぜよ」
「化かすならか」
「その化かしに前にひたすら進んでじゃ」
 そしてというのだ。
「破ることも出来るぜよ」
「そういうことなんじゃな」
「そうぜよ、ほなこの話をな」
「今からじゃな」
「高知に戻ってじゃ」
 そうしてというのだ。
「武市さんのところに戻るぜよ」
「そうしてじゃな」
「鰹のたたきを食いながらな」
「この話をするんじゃな」
「そうするぜよ」
 龍馬はこの時も明るかった、そしてだった。
 二人は高知に戻って武市の家に行って一部始終を話した、すると武市は龍馬に笑って話した。
「そうか、三十六枚進むとか」
「それでぜよ」
「狸の化かしを破ることが出来たか」
「そうぜよ」
「前にひたすら進むとか」
「出来たぜよ、退かなあかん時もあるが」
「前に進まねばならぬ時もある」
 武市は考える顔で言った。
「そうした時があるが」
「あの時もぜよ」
「そうだったか」
「そういうことじゃのう」
「そうか、そしてか」
 ここでだ、武市は言った。
「鰹をか」
「買ってきたぜよ」
 龍馬はこれ以上までになく明るい顔で話した。
「武市さんの家に来るまでにのう」
「そして持ってきたか」
「三人で食うぜよ」
「葱や大蒜も買ってきたので」
 岡田も武市に話した。
「後は」
「うちで料理してか」
「食うだけです」
「わかった、では女房に料理させてな」
 そしてとだ、武市は話した。
「三人で食おう」
「酒もあるかのう」
「安心せい、お主達がいつも来るからな」
 それでとだ、武市は龍馬に笑って話した。
「いつも樽で置いておるわ」
「悪いのう」
「気にするな、わし等の仲だ」
 武市は龍馬そして岡田に笑って述べた。
「それに鰹を持って来てくれたからな」
「だからじゃな」
「遠慮は無用だ、以蔵もな」
 彼もというのだ。
「龍馬について行ったからな」
「だからか」
「遠慮は無用、ではな」
 三人で飲んで食おうと話してだ、そしてだった。
 三人は鰹のたたきと酒を楽しむつつこの度のことをさらに話した、そうしてその話も楽しんだ。坂本龍馬がまだ脱藩する前の逸話である。少しでも多くの人が読んで頂ければ幸いである。


蚊帳釣り狸   完


                  2019・11・17 
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