何故四番に

　　　　　　　　　　　　　　　何故四番に
　落合博満ははじめてオールスターに出場した、自信家で知られる彼も今は流石に興奮を隠せず知人達に話した。
「光栄だな」
「あんたもそう言うんだな」
「当然とは言わないか」
「ああ、何時か出場したいと思っていたけれどな」　
　それでもというのだ。
「もう出られるとかな」
「プロ入りしてすぐだしな」
「けれどあんたの成績なら当然だろ」
「今年首位打者獲れないか？」
「そう思うと当然だろ」
「そうかも知れないけれど嬉しいことは嬉しいよ」
　落合は笑って話した。
「本当にな」
「それじゃあ試合に出られただな」
「余計にだな」
「嬉しいんだな」
「そうなったら最高だな、けれど俺以外にも有名で実績もある人が大勢出ているんだ」
　それでとだ、落合は出場出来た喜びのまま話した。
「俺は代打だろうな、それか途中で出てな」
「オールスターデビューか」
「そうなるか」
「今回は」
「まあ最初はそうだよな」
「あんた歳はともかくプロ入りしてすぐだしな」
「それじゃあそんなものだな」
　今回のオールスターではとだ、知人達も述べた。
「じゃあこれからだな」
「また出た時にどうか」
「そうなるな」
「そんなところだよ」
　落合はそこは仕方ないと笑って言うだけだった、そのうえでオールスターに出場したがベンチにおいてだった。
　近鉄バファローズの監督でありパリーグの監督を務める西本幸雄にこう言われた。
「お前四番や」
「えっ、俺がですか」
「そや、四番や」　
　西本は落合に微笑んで話した。
「頼むで」
「けれど俺は」
　プロとしては若手でオールスター初出場だ、しかも周りには自分よりも遥かに凄い実績や今現在の成績を出している選手がいる。それでだ。
　落合はどうかと言おうとした、だがそれでもだった。
　西本は確かな顔と声で彼にまた言った。
「いや、お前にはその風格がある」
「だからですか」
「今日のパリーグの四番はな」
　つまりパリーグのバッター達の顔はというのだ。
「お前や」
「そうですか」
「宜しく頼むで」
「わかりました」
　西本、パリーグの監督でありこれまで大毎、阪急、近鉄と三つのチームをリーグ優勝に導いてきた彼に言われてはだった。
　落合も頷くしかなかった、そうして彼は四番として試合に出たが。
「えっ、落合！？」
「落合が四番か！？」
「これは意外だな」
「田淵じゃないのか」
　当時西武にいた彼の名前が出た。
「俺は田淵だと思っていたけれどな」
「やっぱり田淵だよな」
「スランプじゃないと本当に打ってくれるしな」
「名前も知られてるしな」
「貫禄があるからな」
「ホームラン王にもなってるしな」　
　実績もあってというのだ。
「そう思うとな」
「田淵だよな」
「何といっても」
「田淵じゃなくても」
　本命である彼でなくてもというのだ。