ヘタリア大帝国
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TURN35 マレー侵攻の前にその九
「その際。これまでの友邦と戦うことは気が引けるが」
「そうなれば仕方がないか」
「倒すだけだ。わかったな」
「わかった」
確かな声でだ。ドイツも頷いた。
そのうえで今度は彼からレーティアにこう述べた。
「ではバルバロッサ作戦の用意だな」
「一気にモスクワまで攻める」
ロシア平原からだというのだ。
「モスクワを陥落させればそれで終わりだ」
「後は勢いに乗り」
「ウラルもチェリノブイリも陥落させていく」
まさに勢いに乗ってだった。
「その為に防寒用意もしているからな」
「有り難い。フィンランドから聞いたが」
「ソビエトの寒さは当初私が考えていた以上だったな」
「あの国は冬将軍で勝ってきた国だ」
しかもその冬将軍は具体的に身体としてある。
「防寒対策は欠かせない」
「それを考えると北欧での戦いはいい経験になった」
「あの辺りもかなりの寒さだたっただけに」
「そうだな。ではだ」
「このままバルバロッサ作戦の準備を進めていく」
ドイツは確かな声でレーティアに述べた。
「全ては予定通りだな」
「順調だ」
レーティアはドイツの言葉に満足している面持ちで答えた。
「全ては私の計画のままだ」
そう進んでいると言ってだ。レーティアも彼女の仕事にかかる。だがだった。
その仕事はかなりの量だった。それを一人でやっていた。まさにドクツの全てのことを彼女一人が決裁していた。書類だけでもかなりのものだった。
そのことについてだ。ドイツ妹がふとグレシアに尋ねた。
「総統閣下ですが」
「レーティアがどうかしたの?」
「はい。仕事が多過ぎるのでは」
少し心配になっている顔でだ。こう言ったのである。
「朝早くから深夜まで働いておられますね」
「そうね。レーティアは真面目な娘だから」
「その事務処理能力もかなりのものですね」
「その方面でも天才なのよ」
グレシアは微笑んでドイツ妹に答える。
「あの娘はね」
「はい。ですが」
「それでも仕事が多過ぎるっていうのね」
「あれではまるで始皇帝です」
中帝国の最初の皇帝の名前が出た。
「歴史書にありましたが」
「ああ、始皇帝ね」
「宣伝相も御存知ですね」
「勿論よ。教科書に絶対に出て来る人だから」
軽い、彼女らしい調子でだ。グレシアはドイツ妹に答える。
「凄い量の仕事をしていたらしいわね」
「始皇帝は過労で死んだという説があります」
ドイツ妹はその顔に出ている心配の度合いをさらに強くさせていた。
「ですから」
「確かにね。レーティアは連日連夜かなり働いているわね」
「コンサートのこともありますし」
「アイドルは分刻みのスケジュールだけれど」
しかもレーティアは只のアイドルではない。今や人類社会を席巻するドクツの総統なのだ。
それだけにだ。その仕事の量はというと。
「あの娘はまた特別だからね」
「少し休んで頂いた方がいいのでは」
「そうね」
その通りだとだ。グレシアもドイツ妹の言葉を受けた。そうしてだった。
こうだ。ドイツ妹に対して述べた。
「レーティアは仕事の量を減らさない娘だけれど」
「それでもですね」
「休憩時間、特に睡眠時間を増やすようにするわ」
「スケジュールの調整ですね」
「そうしましょう。レーティアあってのドクツだから」
「はい、そうですね」
ドクツはまさにそうだった。レーティア一人が動かしていた。そうした意味で究極の独裁国家なのだ。言うならばソビエトと同じなのだ。
「少しでも休んで頂いて」
「あと食事ね」
「総統は菜食主義者ですね」
「ええ。お肉もお魚も口にしないわ」
「ではどうされますか」
「料理の献立なら任せて」
グレシアは確かな顔で微笑んでドイツ妹に答えた。
「そういうことも得意だから」
「宣伝相はお料理ができたのですか」
「女よ。それも独身の」
「だからですか」
「お料理をしないではいられないのよ」
スーパー等で買って済ませることもできるがそれでは栄養が偏り尚且つ高くつく。グレシアは元々百貨店の店員、市井の人間なのでそうした経済感覚なのだ。
「だからよ」
「わかりました。ではそれも」
「とにかく。勤勉な娘だから」
グレシアはここでは少し溜息を出した。
「ちょっと油断したらね」
「働き過ぎになりますね」
「ええ。そこが問題ね」
こんな話をしてだ。レーティアの体調管理についても考えられてきていた。だがバルバロッサ作戦、ドクツの命運を賭けた戦いの前にそうも言ってはいられなかった。レーティアは働き続け休息の時はグレシア達が考えている様には取れなかった。
ドクツは確かに邁進していた。しかしその邁進の柱の軋みは誰も気付かなかった。しかしその軋みは確実に表に出る時を待っていた。
TURN35 完
2012・6・19
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