戦国異伝供書
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第七十七話 諱その十一
「それでもな」
「あの方が頷かれぬので」
「それで、ですな」
「殿にしても」
「どうにもな」
動きがないというのだ。
「無念であるが」
「天下は動くというのに」
「当家はこのままでは」
「流れに取り残され」
「厄介なことになりますな」
「絶対にしてはならぬことは」
そのこともだ、宗滴は話した。
「織田家といがみ合うことじゃ」
「それは、ですな」
「当家にとって滅びの道ですな」
「間もなく大きな勢力となり天下にも睨みを利かす織田家といがみ合うなぞ」
「それこそ」
「今の八十万石の当家がな」
即ち朝倉家と、というのだ。
「何百万石となる織田家といがみ合うなぞ」
「あってはなりませんな」
「若しそうなればです」
「敗れるのは当家ですな」
「どう考えても」
「よくわしがおるというが」
名将と言われている自分がとだ、宗滴はその皺が目立つ顔で己の前にいる自分の家臣達に対して話した。
「三十倍の門徒の一揆にも勝った」
「あれはあくまで一向一揆であり」
「まともな武器もなく兵法も知らぬ」
「そうした者達ばかりだったので」
「だからですな」
「勝てましたな」
「織田家は違う、弱兵というが」
それでもというのだ。
「武士は武士でじゃ」
「しかも織田家には名将が多い」
「知将猛将が揃っていますな」
「だから殿お一人では」
「勝てぬと」
「そうじゃ、勝てぬ」
とてもというのだ。
「だからじゃ」
「それで、ですな」
「織田家といがみ合ってはならぬ」
「何があっても」
「むしろ手を結ぶ」
「そうせねばなりませぬな」
「そう思うが」
それでもとだ、宗滴は言ってだった。
そうしてだ、朝倉家の今後に想いを馳せるのだった。長政の雄飛のことを思いつつそれで言うのだった。
第七十七話 完
2019・12・8
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