ようこそ、我ら怪異の住む学園へ
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其の参 鏡の世界
第二十話 甘い話
「鬼神様!」
いつも通り図書室の奥の部屋の扉を開けると、窓に四番目は腰をかけていた。
だがすぐに元宮に気付くことはなく、自身の腕を見つめてぼーっとしている。
どうかしたのかと思い、四番目に近付いて肩を叩こうとして———すり抜ける。
そういえば、四番目は怪異であり、触ることは出来ないのだと再度思い返す。
でも触れている時のあったような、と元宮が思った途端、四番目が振り返った。
「ひゃあっ⁉︎」
四番目も元宮を突き飛ばそうとして、腕がすり抜ける。
何をしているのかと思って、元宮が不思議に思いながら顔を上げると———
四番目はあろうことか、顔を真っ赤にして口を押さえていた。
「え……今の、鬼神様のこ、え……」
「き、聞かなかったことにしろ!」
余程恥ずかしかったのか、四番目は近くにあったクッションを投げつける。そしてぺちぺちと元宮の頰を叩く。
この時は、触れられている。
「わ、忘れます! 忘れますから……って」
そこで、元宮はふと疑問に思う。
———そういえば鬼神様が腕捲りをしている。腕も眺めていたし、一体何があったのだろう。
そして四番目の腕を見てみると、そこには黒い入れ墨のような線が一本入っていて。
何かと思えば、それに気付いた四番目が腕を後ろに隠してしまう。
「こ、これも忘れろ!」
そうは言うが、元宮はそれを忘れる気にはなれない。
そういえば、様子がおかしいと思っていたところだった。
授業の妨害にこないし、腕は後ろでずっと組んでいるしで、腕を隠すためにかは分からないが避けられている気がしていた。
それがもしこの入れ墨があることと関係しているのであれば、完全に非は元宮のほうにある。
「忘れられませんよ……だって、鬼神様。苦しそうじゃないですか」
元宮は窓際にいる四番目に詰め寄って、窓に腕をつく。
そうすれば、元宮と窓枠の間に四番目は挟まれるような態勢になる。俗にいう“壁ドン”に近い状態だ。
四番目に触れる内に、腕を引っ張ってもう一度腕が見えるようにする。
いくら怪異と言えど、元は一人の女性であり、しかも慣れない出来事の連続で照れっぱなしの四番目に、元宮に抵抗する力は残っていない。
顔を逸らしながらも腕を出すと、「あまり見るな」と小さく呟いて黙り込んでしまう。
腕に刻まれているのは普通の入れ墨。
江戸時代にあった入墨刑で刻まれた入れ墨に似ているだろうか。太い一本の線が、そこに刻まれている。
そういえば、よく意識していなかったから忘れていたが、シオンの腕にも同様のものが刻まれていた。
何か関係があるのだろうかと思い、元宮は問う。
「これは生前につけられたもの……なんですか? それとも最近ですか?」
率直な質問。だが、真っ直ぐ向けられた瞳に、四番目は少し戸惑いを見せる。
「……そっ、それを聞いて何になる」
「ただ知りたいだけです。一応、貴方は僕の運命の人なんでしょう?」
「こんな時に限ってそれを持ち出すな……あ」
四番目がようやく顔を上げたところを、元宮は今度は頰に手を這わせて逃さないようにする。
その肌は真っ赤なのに雪のように冷たい。
怪異の温度は本当に冷たいんだなと、どうでもいいことを思いながら、更に顔を近付ける。
「答えてください。鬼神様」
「……き、禁忌を……犯したから……その罰、だ」
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