ようこそ、我ら怪異の住む学園へ
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其の弐 蛇を宿した女
第十一話 教えて鬼神様
放課後。元宮と四番目は旧校舎二階へやってきていた。
既にこの階に人はおらず、居るのは二人だけ。噂の検証を含め、噂を改変するには丁度いい。
二人は空き教室に入り、元宮は教壇前の席に座ってノートを広げ、四番目は教壇に立って、チョークを手にしている。
「……さて、怪異についてもう一度説明してやろう。あの時は、適当にその辺にいた老婆の怪異に頼んだだけだからな」
———いいか?
今回の『蛇を宿した女』。この学校の七不思議と言われているな。
怪異ってのは、死んだ者が強い怨念や願いを抱いて怪異になる例が一般的だ。これらは死霊と呼ぶ。
生きた者が強い怨念や願いを抱いて怪異になる例もある。俗に言う生霊ってやつだな。
あとは……そうそう、想像でできた怪異ってものもいるな。まあこれは珍しいから説明はいらん。
今回は死霊の説明をしてやろう。
死霊だと、死んだ場所を彷徨い続ける地縛霊なんかが有名だな。
その場所に強い想いを抱いて怪異となり、その場所で願いを果たすまでひたすら待つ。それが地縛霊だ。
えー、『愛の桜』の噂の怪異なんかがそれだな。死後もその場に留まって、自分らが生きて結ばれるのを待っている。
今回の『蛇を宿した女』ってのは、その死霊と想像でできた怪異を組み合わせたものだ。こうなるとあんまり珍しくはない。
力の強い怪異ってのは、怨念や願いが強いって条件と共に、沢山の人間が噂を知っているって条件がある。
その二つを満たしたのが、今回の『蛇を宿した女』だ。
奴は研究員への恨みを晴らすために人間を惨殺するという噂だろう? それは本当だ。
研究員への恨みを晴らすために怪異となり、今でも研究員……女を殺して回っている。
で、想像がなんたらってのは、奴の噂の広まりに問題がある。
例えば、一人が女の怪異に追いかけられたとしよう。
そこで、「女に追いかけられた」と言うだけじゃ迫力に欠けるから、「なんか蛇女に追いかけられた」と言ったとしよう。
それを聞いた一人が「上半身が人間、下半身が蛇のような女に追いかけられた」と言って、また次が……
それが繰り返されるうちに、怪異は人々が噂を知ることによって強さを増し、そして姿形を変化させる。
仕方ないのだ。怪異は噂には逆らえない。何故なら、噂があるから怪異が存在できるから。
それが想像を加えた例だな。
七不思議ってのはこういう例が多くてな。
噂を知っている者、噂に興味がある者が多いから、より強力となり“七不思議”と呼ばれるのだから———
「ってわけだ」
「な、なんとなく……分かりました」
黒板には、記号と文字がびっしりと書き込まれている。
一体、なんの意味があった授業なのかは分からないが、とりあえず教師と生徒ごっこということで済ませておこう。
「え、じゃあヒロトさんたちも七不思議って言ってましたけど、二人もそうなんですか? 想像もプラスされてるって……」
「嗚呼、奴らは七不思議じゃないぞ」
「え……? じゃあ、嘘を吐いたんですか? 彼らは……」
「違う」と四番目は即答する。目を思い切りあけて驚いていた元宮も、それで安心したように胸を撫で下ろす。
「七不思議はあんなに弱くない。七不思議は私の何倍も、何十倍も強いからな」
軽く言うが、元宮は全然信じていない。「またまた〜」と言いながら笑っている。
だが、事実そうなのだ。
四番目は七不思議ではない。だから単純に考えれば、当然のように四番目の方が七不思議より弱いことになる。
「それに、七不思議に『愛の桜』なんて馬鹿げた噂なんてなかったはずだ。恐らく、何者かに吹き込まれたのだろう」
……気を取り直して、だ。
「で、その七不思議の六番のことだが……勿論、君がおびき寄せてくれ」
「え? でも、蛇女が狙うのは女の子じゃ……」
素直に質問をすると、四番目はニイッと口の端を大きく吊り上げて、どこかから“それ”を取り出した。
「うぃっぐだったか? 持ってるぞ」
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