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夢幻水滸伝

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第百二十一話 台風その十二

 大坂つまり摂津風のお好み焼きを焼きはじめた、ここで井伏は彼が焼いているお好み焼きを見て言った。
「海老玉けえ」
「はい、最初は」
 石川は焼きつつ山本に応えた。
「こちらをです」
「食うんじゃな」
「そして次はいか玉、そして豚玉と」
「やってくんじゃな」
「そのつもりです」
「そうじゃけえ」
「モダン焼きは食わんのじゃな」
 井伏はこちらはと言った。
「そっちは」
「モダン焼きも好きですが」
 それでもとだ、石川は井伏にも答えた。
「ええですが」
「今はか」
「お好み焼きにします」
「それを三枚食うか」
「そのつもりです、ほな」
 ここでだ、石川はサイダーも出した。そうしてそれも飲むがここで井伏は石川に笑みを浮かべて言った。
「お酒は飲まんのじゃな」
「お二人と同じかと」
 石川は井伏に笑って返した。
「今私が飲まん理由は」
「戦の前やからやな」
「やることが多いので」
 それでと言うのだった。
「しかも何時戦になるかと思うと」
「それやったらじゃな」
「はい、お酒はです」
「飲まんのう」
「後にしようと」
「そうじゃな、飲むんじゃったら」
「南洋との戦が終わり」
 そうしてというのだ。
「その戦での戦費の計算が終わってから」
「戦費までじゃな」
「それが終わってからです」
 石川は財政家という自分の職業から話した。
「飲みます」
「財政家も大変じゃのう」 
 山本も今はサイダーを飲んでいる、粉ものと炭酸の見事な組み合わせを楽しみつつしみじみとした口調になっている。
「何かと」
「お金の計算のことですか」
「それじゃ、わしはどうも銭の勘定をしても」
 尚山本も井伏も山陽の勢力を率いていた時はそうしたこともしていた。
「苦手意識があってのう」
「わしもじゃ」
 井伏もだった、このことは。
「何か苦手じゃ」
「そうじゃのう」
「そこは相性や適性があるので」
 それでとだ、石川は海老玉を食べつつ言うのだった。
「仕方ないかと」
「力士や侍はじゃな」
「そっちの専門じゃないのじゃな」
「そういうことですわ、まあ私はこっちが本職やさかい」
 この世界ではというのだ。
「それを果たすだけですわ」
「そうなんじゃな」
「それぞれの仕事があるんじゃな」
「そうですわ、しかし」
 ここでだ、石川はこんなことも言った。
「お好み焼きにはソースだけやなくマヨネーズも欠かせませんわ」
「ああ、それじゃな」
「その組み合わせじゃな」
「これはええですね」
「こっちの世界でもお好み焼きが食えてじゃ」
「それでソースもあってじゃ」
 そしてとだ、二人も言うのだった。
「青海苔に鰹節に紅生姜」
「そしてソースもじゃ」
「もっと言えば天かすも使う」
「それも使わなあかんが」
「マヨネーズもじゃ」
「これも欠かせんわ」
「ほんまそうですね、こっちの世界にもマヨネーズがあって」
 そしてというのだ。
「よかったですね」
「全くじゃ」
「それで余計に美味くなるけえ」
「だからじゃ」
「お好み焼きにはマヨネーズもじゃけえ」
 ソースだけでなくというのだ。
「もう欠かせんけえのう」
「全くですね」
 石川も頷いて応える。
「このことは」
「ほな今は酒は飲まんが」
 山本は笑って言った。
「お好み焼きたらふく食うてのう」
「戦に向かうとするけえ」
 井伏も言う、三人でこうした話をしつつ今はお好み焼きを食べるのだった。


第百二十一話   完


               2019・7・8 
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