無欲な人
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第二章
そこに銀貨を巨大な身体にこれ以上はないまでに積み込んだ象がいた、スルタンは彼の座からビールーニーに話した。
「あれがだ」
「銀貨と象がですか」
「そなたへの褒美だ」
表へのというのだ。
「それだ」
「そうなのですか」
「銀貨で糧を得て象を使うといい」
そうしてどちらも財産とせよというのだ。
「是非な」
「いえ、折角ですが」
ビールーニーは微笑んでだ、スルタンに顔を戻して答えた。
「これはです」
「これは?」
「受け取りませぬ」
「何故だ、あれだけの銀貨と象があれば」
それこそとだ、スルタンはビールーニーに怪訝な顔で述べた。
「それこそ死ぬまでだ」
「暮らしに困らぬですね」
「そうだ、それなのにか」
「私は今手元に私と家の者達が食えるだけの金があります」
ビールーニーは微笑んだままスルタンにこのことを話した。
「ですから」
「よいというのか」
「はい、全てです」
「しかしだ、また言うが」
「あれだけの銀貨と象があればですね」
「そなたは一生食うに困らぬのだが」
「ですが手元に必要なだけあるので」
それでとだ、ビールーニーはまたスルタンに話した。
「いいのです」
「あくまでそう言うか」
「はい、全てお返しします」
「そこまで言うならな、だがまことにそなたは無欲だな」
スルタンはビールーニーの言葉を受けてあらためて彼に話した。
「噂には聞いていたがな」
「いえ、ただまことにです」
「金は必要なだけあればいいか」
「それよりも学問が出来れば」
それでとだ、ビールーニーはスルタンに笑って話した。
「私は満足です」
「あらゆる学問がか」
「そちらの方が私の欲です」
「そういうことか」
「はい、ではまた何かあれば」
「そなたを呼ばせてもらう、だが今度はそなたが必要なだけの褒美を出す」
ビールーニーの考えを受け取ってだ、スルタンもそうすることにした。
アル=ビールーニーは無欲な男であった、自分と家の者達が食える分の金があればそれで満足だった。それで彼はひたすらあらゆる学問に励んで生きた。それで彼がどういった学者であるのかは色々言われた。だがそれも彼にとってはどうでもいいことだった。学問が出来ればそれで満足であったから。
無欲な人 完
2019・8・4
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