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無欲な人 

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第一章

               無欲な人
 アル=ビールーニーは何者か、それは様々な者の間で意見が分かれていた。
「数学者だ」
「いや、天文学者だ」
「占星術師だ」
「医者だ」
「科学者だろう」
「地理学者だ」
「歴史学者ではないのか」
「違うな、言語学者だ」
 とかく何者であるかは諸説あった、だが共通しているのは彼が学者であるということだった。つまり彼は学者であった。
 様々な学問に通じ熱心に学んでいた、それで様々な学問を学んでどの分野でも素晴らしい実績を残していた。
 それで彼は学者として知られ占星術や医者としての仕事で多くの富を得ていた。だがそれでもだった。
 彼はこの世のことにはあまり興味はない感じだった、とかく無欲だった。
 ほっそりとした顔に生えている髭もこれといって手入れせず服も質素なものであり家も質素なものだった。
 それでだ、家の者も彼に言った。
「お金は、ですか」
「必要なだけあればいいから」
 ビールーニーは家の者にこう返した。
「だからだよ」
「いつもですか」
「お金は必要な分だけ置いて」
 手元にというのだ。
「それでいいよ、それにね」
「それに?」
「その必要な分のお金は」
 それはというのだ。
「いつもあるからね」
「旦那様はお仕事でいつも報酬を貰っていますね」
「それで必要な分はね」
 その働きでというのだ。
「貰っているから」
「それで、ですか」
「いいんだよ」
「それでなのですね」
「お金に困っていないから」
 いつも必要なつまり自分や家の者達が食べられる分だけはあるからだというのだ。
「いいよ」
「そうですか」
「これといってね」
「そう、そして」
 それでとだ、こう話してだった。
 ビールーニーは無欲なままでいた、金は食べられる分だけ置いて後は人にあげたり返したり喜捨をしていた。
 その中であるスルタンの王宮に呼ばれてスルタンから直々に頼まれた。
「星の動きをな」
「調べてですか」
「そしてそれを表にしてくれるか」
 星の運行表を作って欲しいというのだ。
「そうしてくれるか」
「わかりました」
「頼むぞ、褒美は弾む」
 スルタンは自身の座からビールーニーに鷹揚だが誠実な態度で話した、そうしてだった。
 ビールーニーはすぐに優れた表を作ってみせた、それをスルタンに献上すると彼はそのことを確かめるとだった。
 傍にいた者達に笑みを浮かべて命じた。
「あれを持って来るのだ」
「わかりました」
「それでは」
 傍の者達も応えてだった、そうして。
 すぐにあるものを出してきた、だがそれは宮殿のスルタンの間に入れられるものでないらしくスルタンはビールーニーに笑顔で話した。
「窓のから中庭を見るのだ」
「中庭ですか」
「そこに余からの褒美がある」
 こう言ってだ、そうしてだった。 
 ビールーニーはスルタンの言葉に従い今自分達がいる宮殿のスルタンの間の窓から中庭を見た。すると。 
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