戦国異伝供書
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第七十一話 黄色から紺色へその十三
だがその義景についてだ、宗滴は苦い顔になって述べた。
「殿はな、武の方は」
「殿のことですか」
「あの方のことですか」
「ご幼少の頃からじゃ」
宗滴自ら育てたがとだ、苦い顔のまま話した。
「あの通りな」
「どうにもですか」
「如何ともし難いですか」
「あの方については」
「武の資質があまりにもな」
ないというのだ。
「従って朝倉家の武はわしにかかっておるが」
「織田殿には敵わぬ」
「だからですか」
「結ぶべきですか」
「家の格は大事じゃ」
宗滴はこのこともわかっている、公家の家もそうであるがやはり武士も家の格が大事だ。それで朝倉家は織田家よりも上だと思っているのだ。
しかしだ、それでもというのだ。
「だがそれだけで家は守れぬ」
「ではですか」
「織田家と結び」
「そのうえで、ですか」
「戦国の世を生き残ることをな」
それをというのだ。
「考えるべきじゃ」
「ですか」
「ですが殿はです」
「おそらく織田家にはです」
「その様なことは」
「されぬな、また戦のことよりもな」
それよりもというのだ。
「都から下られた公卿の方々と和歌や古書に親しまれておられてばかりじゃ」
「はい、源氏物語等に」
「政よりもご熱心で」
「それに触れられぬ日々はありませぬ」
「都のことに」
「少しならよいが殿は溺れておられる」
和歌や古書にというのだ。
「今は戦国の世じゃ」
「だからですな」
「あの有様はよくありませぬな」
「到底」
「うむ、あれではじゃ」
まさにというのだ。
「織田家には到底敵わぬ」
「左様ですか」
「だから余計にですか」
「宗滴様はそう思われますか」
「織田家と結ぶべきと」
「織田家が大きくなってからでもよい」
それでも手遅れではないというのだ。
「だが当家が残る為にはな」
「それがよいですか」
「ですが殿にはですか」
「それが出来ませぬか」
「どうしたものか、まことに若し織田家との戦になれば」
その時はというと。
「何度も言う、わしではじゃ」
「敵わぬ」
「左様ですか」
「尾張の兵は弱いが」
このことは天下によく知られている、とかくその兵は弱いとだ。
「五倍六倍いや十倍になれば」
「恐ろしいですか」
「優れた将帥が率いているなら」
「そうであれば」
「わしは確かに三十倍の門徒達に勝った」
一向宗の者達にというのだ。
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