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あべこべ道! 乙女が強き世界にて

作者:マロンex
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第1話 いつもと違う世界

ピピピピッ ピピピピッ ピピピピッ
「ひろー! いつまで寝てるのー。目覚ましうるさいから止めてー」
 
「うーん...後5分だけ...」
 
ピピピピッ ピピピピッ
 
ドンドンドンッ
 
「目覚ましうるさいって! もう朝食できてるから早く食べて! 初日から遅刻しちゃうわよ!」
 
「はーい....うわっ寒っ....」
 
掛け布団をひっぺがされ目が覚めた午前7時。
私河野ひろ、大学1年生になりました。今日はそんな大学生活の記念すべき1日目の入学式。
本来ならきっとワクワクとドキドキに身を包んだ緊張の1日だろう。
だが、残念なことに適当に選んだよくわからない辺鄙の地の大学に入学することになったこともあり、私自身は新生活に全くきらめきを感じていなかった。というかむしろ...
 
「はぁ...通学時間1時間越え、戦車部(学部名)での陸の孤島での夢の学園生活が始まるのかぁ...」
 
朝からそんな愚痴をこぼしながら、寝癖ぼさぼさの状態で階段を降りる。
 
「ふぃー。よっこいしょ。 ...いただきます」
 
「こら、男の子がそんな言葉言うんじゃなのまったく...寝癖もついてるし身だしなみくらいシャキッとしなさいよ」
 
「はぁ? なにそれ....って龍弥どしたのそのかっこ」
 
少し違和感を覚える母の言葉を聞き流し、ふと弟の龍弥に視線が映る。同じく今年で高校1年になった弟は服装こそは制服だが、髪は昨日見たときよりやけにサラサラ、爪にはネイル?らしきものをつけており、極め付け耳には小さなピアスをつけていた。
 
「なにって...最低限の身だしなみ程度だよ。 お兄ちゃんこそ大学生にもなって初日からそんな格好で行くわけ?だから彼女の一人もできないんじゃないの?」
 
「かっ..彼女とかは関係ないだろ! っていうかお前、随分おしゃれに...」
 
自分と同じく面倒臭がりの我が弟は、中学までは制服以外はジャージか同じTシャツ。寝癖もそこそこに毎日学校に通っていたはずだったが....ていうかいつの間にピアスなんて買ったんだ?
 
「お兄ちゃんが無頓着なだけでしょ、これくらい男子なら普通...いや少し地味目くらいだと思うけど?」
 
「地味って...うーん...今時はそんなもんなのか?」
 
「そうだよ。...お兄ちゃんも、今日入学式なんでしょ。いつまでもそんなんでいないで、これを機に男子力でもあげたら?」
 
(男子力? なんだそれ、女子力の対義語か?...まあ青い春な高校生、背伸びしたい年頃なんだろな。にしても...高校デビューでも狙ってんのか?やけにガラッと雰囲気変えてきたな...両親もなんも言わないし)
 
「ははっなんだそりゃ、俺には一生無縁の言葉だな。じゃあチャチャっと準備して行ってきますかねー」
 
「...お兄ちゃん、まさかとは思うけど寝癖直して服きて終わり...みたいなことはないよね?」
 
「は? それ以上になんかすることある? ああ、歯磨きもするが...」
 
「...もう! ちょっとこっちきて!」
 
「ちょ! なにすんだよ!」
 
突然、腕を引っ張られ、洗面所に連れて行かれる。慣れた手つきで髪をセットしたり、化粧水を塗られたり、爪を磨かれたりすること20分、ようやく満足したのか、弟が手を止めた。
 
「...まあ、これなら許容範囲かなぁ」
 
「おい、なんだよこれ、別にここまでしなくても...」
 
(おいおい、なんだこれ、これって俺なのか? すごいなんというか...まともに見える!)
 
「あのさ、お兄ちゃん。弟としてってより、男として言わせてもらうけど、さっきまでの格好、正直終わってるよ。冗談抜きで男捨ててるとしか思えないんだけど。家族として恥ずかしいから明日からは最低限これくらいは善処してよね」
 
「善処って...」
 
「あ、あと、服も今日だけは自分のチョイスで選ばせてもらったからこれきてね。あの様子だとパーカーにズボンとかで出て行きそうだから」
 
「はあ? 何でお前に服まで!」
 
「きてね、わかった?」
 
「あ、は、はい...」
 
反論しようと思ったが、弟の目がマジだったのでやめた。これは逆らったら殺されるやつだ。
 
「じゃあ、僕は行ってくるから、お兄ちゃんも頑張ってねー」
 
「行ってらっしゃーい。...あら、ひろも随分男らしくなったじゃない、ふふっ、華の男子大生って感じよ」
 
「...華? だめだ...俺がおかしいのか? 昨日まではこんな...」
 
母の言葉や弟の言動に少し違和感を覚えつつも、慣れない格好のままリビングに戻りテレビをつける。
明らかに昨日とは違う世界に戸惑いを隠せない。
 
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<今話題! 男子必見のおしゃれカフェ特集!...
<絶対に焼かない、男を磨くのは40を過ぎてから...
 
「やっぱりおかしい...これってまさか男女が...」
 
「なにブツクサ言ってんのよ、ほら、さっさとしないと本当に遅刻するわよ」
 
「やべっ! こんな時間か! 行ってきまーす!!」
 
「はーい、行ってらっしゃい」
 
朝から戸惑っているうちに、遅刻ギリギリの時間になっていた。息急き切ってホームに向かう。何とか電車の時間には間に合ったようだ。電車に乗り込み、今日の朝からの違和感を整理していた。
 
(母親の言葉、弟の自分に対する言動...うーん...男女間で何かが逆転して...)
 
考えをまとめている最中、お尻に妙な違和感を感じた。
 
(嘘...これって...)
 
気配から察するに後ろに誰かおり、明らかに意図的に触られている。
 
(マジかよ...これって痴漢てやつ...!? )
 
当然初めての経験だったので、硬直して動けず、声を出そうにも恐怖からか震えてうまく発することができない。しかも小柄な体格と混んだ車内のせいで、周りは全く気づいてていないようだった
 
「あ、あの...やめて...」
 
情けない声を必死に振り絞り、声を出したが、触れている手は逆により強くなっている気がした。
 
(まじか...何でだ...めちゃくちゃ怖い...大学まではまだまだ時間あるし...どーしよ...)
 
情けなく涙目になり、途方に暮れていると、後ろから大きな声がした。
 
「おい、そこの女、なにやってる」
 
「な、なにもして...」
 
「嘘だな、お前、この男の子に痴女してただろ。 ホームに降りろ」
 
(痴女するってすごいワードだな...てかかっこいいこの人...)
 
「ちょ、ちょっと!」
 
「いいから降りろ」
 
凛とした目で『黒森峰』と書かれたバックを持った女性が自分のお尻に触れていた手を力強く引き剥がした。
タイミングよく駅に着き、無理やり痴女を引き摺り下ろすと、手際よく車掌に身柄を引き渡していた。
 
「あ...あの...ありがとうございました」
 
その女性についていき、自分もホームに降りた。どうしてもお礼を言いたい一心だった。
 
「むっ...。ついてきたのか。...いや何、当然のことをしたまでだ気にするな。それより、最近はああいう輩が増えているからな。気をつけろよ」
 
(うわあ...かっこいいなあ。 男の俺より全然男らしい...)
 
「...電車、途中で降りてしまって大丈夫だったのか? 随分急いでいたみたいだったが...」
 
「え? 電車...あー!!! しまった! あれってそういえば大洗への最後の電車だった...遅刻確定だー...」
 
「大洗..? もしかして大洗大学へ行くつもりだったのか?」
 
「え? ええ..よくご存知で」
 
「ああ、妹が通っていてな。今日は入学式というから観に行こうと思っていたところだ、奇遇だな。...ちょうどいい、一緒に行くか。場所も駅から若干離れているしな、案内ついでにもなるだろう」
 
(かっこいい上に気配り上手...自分が女だったら間違いなく今ので惚れてる)
 
「はい! 是非! で、でもこのままだと遅刻ですね...どうしましょう」
 
「なに、電車がないだけで時間はたっぷりあるんだ、他の交通手段を使えばいい。タクシーならそこらへんで捕まるだろう」
 
「そうですね、そうしましょうか...」
(こっから大洗までタクシーってまじか、そんなに金あったけ...)
 
「うむ、決まりだな。では行こうか」
 
運よくすぐに捕まったタクシーに乗りこむと、自分とその女性は大洗大学に向かう。寡黙な性格なのだろう、車内に乗ってから外を眺め、一言も話さない彼女だったが不思議と気まずくはなく、むしろ安心感を覚えた。
 
(今日はなんだが...もう始まったばかりなのに...なんだかつかれたな...)
 
明らかに昨日とは違う世界に戸惑いっぱなしだった自分につかの間の平穏が訪れ、気がつくと眠りについているのだった。
 
 
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