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NARUTO 桃風伝小話集

作者:人魚
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その38

 
前書き
中忍試験開始だってばよ!の、ナルトが胃痛を覚えていた頃の二人。
クシナさんとミコトさんが親友かつ、ミコトさんがうちは一族と言うところから膨らませて、捏造設定ぶっこみました。
ミコトさんはクシナさんとミナト君と縄樹君のアカデミー同期生。(根拠:確か、ミコトさんと縄樹君とミナト君の忍登録番号が同期でもおかしくない近さの番号だった気がする)
それプラス里のあれこれとかうちはのあれこれに絡んだ政治的配慮で、ミコトさん(うちは)と縄樹君と(千手)とミナト君(優秀な一般人)が、火影直弟子の自来也さんの担当下忍だったことにしちゃいました。
大蛇丸さんのが能力伸ばすには適任じゃ?という声もあったけど、それよりも、自来也さんの人柄と思想と、うちは一族本家直系のミコトさんと縄樹君とミナト君との交流を通して、うちは一族が里に歩み寄りを見せることを期待されてました。(ミコトさんとミナト君の世代の、カカシ隊第七班みたいな扱い的な感じ?) 

 
木の葉の里の現状を鑑みて、うちは一族の血継限界の奥義とも言うべき瞳術である万華鏡写輪眼を波の国で開眼させてしまったサスケの処遇は、中忍試験を目前に、急遽、三代目直々の預かりとなった。
それは、サスケを三代目の直轄とし、根の者からの手出しを控えさせる狙いが一つ。
優秀な人材であるが、里に複雑な思いを抱えているサスケを正しく導く為の狙いが一つ。
何よりも、万華鏡写輪眼を開眼させてしまったサスケの離反を招けば、三度目の九尾襲来の可能性が現実味を帯びてしまう。
ナルト自身の意がそこにあろうとなかろうと、出来てしまうだろう事の方が重視された。
そしておそらくは、何もせずともナルトはサスケの動向に追従する。
里はそう見ている。
そしてそれはカカシの見立てでも変わらない。
サスケは里にとっての脅威となる可能性と、それを為せる力を年若くして手にしてしまった。
そんなサスケを導くには、如何にオビトから譲り受けた写輪眼を左目に持つカカシといえども、力不足である事は否めない。
ましてやサスケは、ナルトを守る為の力を更に欲している。
大切なものを何一つ守り切ることの出来なかったカカシでは、師としてサスケを正しく育て、導く為の指導力が圧倒的に不足しすぎていた。
それに。
どうすれば大事なものを守り切る事ができたのか。
カカシには、今でもそれが、どうしても分からない。
分かっているのは、カカシには、自分の望みを叶える為の力が足りなかった。
その事実だけだ。
だからこそ、カカシには出来なかった事を成し遂げられるかもしれない特別な力を、年若くして手にしたサスケが少し眩しく、そして同時に案じていた。
力と才、そして若さは、容易く驕りと慢心を生んで、大切な物に自ら目隠しをしてしまう。
その代償は、とても重い。
目を覚ます為に引き換えにするのは、守るべき物、守りたいと願ったはずの大事なもの、あるいは、それに類する何かなのかもしれないのだから。
そうして、どこまでも尽きぬ後悔を抱える羽目になる。
今の、カカシのように。
サスケ自身が己の得た力に溺れ、驕り高ぶった結果、見えていたはずの大事なものが手のひらから零れ落ちていたと気付いた時、サスケの傍に守るべき大切な物があるとは限らないのだから。
カカシがいつものように墓地の中央に位置する慰霊碑の前で、失くしたものに対する悔恨と後悔に裏打ちされた物思いに耽り、佇んでいた時。
中忍試験参加決定という状況を見て、呼び出しておいた待ち人の小柄な姿が現れた。
中忍試験推薦時に、サクラの実力に合わせてお前達にはまだ早いと口にはしたが、実力からすれば、サスケとナルトは既に中忍Lvには至っている。
問題なのは精神面だ。
まだまだ粗削りだが、比較的常に冷静で安定しているサスケに比べて、圧倒的に不安で修行不足なのはナルトの方だが、技術面や素養の面では、ナルトもサスケも今回の試験で中忍に昇格しても問題はない。
しかし、カカシとしては、ナルトやサスケの抱える問題と境遇故に、二人には今回の中忍試験には参加して欲しくなかった。
二人の成長自体は喜ばしいが、もう少し手元に。
出来る限り、カカシが守ってやれる場所に。
そんな身勝手な思いに、カカシは複雑な気持ちになる。
しかし、子供の成長は、こちらの想いを越えて行くもののようだ。
心ならずも、短期間で手放すことになってしまった。
自分の力不足を改めて痛感する。
「来たね」
気配を察し、感傷を断ち切って物思いから立ち直り、振り返って声をかければ、カカシから数歩距離を取った所で、珍しく神妙な様子で所在なさげに佇みながら、ばつが悪そうに仏頂面を更に顰めているサスケが応えた。
「…こんな所にオレを呼び出して、一体何の用だ」
いつものような尊大で生意気な物言いも、場所柄を気にしてか、幾ばくか声に力がない。
そんな捻くれた素直さも、まるで昔の自分を見ているようで、だからこそ、己と同じ轍を踏まないで欲しいと切に願う。
しかし、いち早くカカシの手を離れることになったサスケは、もう、傍で見ていてやる事が出来なくなってしまったから。
本当は、こんな悔恨を晒す事など、忍としては恥でしかないのだが。
自分に似ていて、うちは一族のサスケにだからこそ、話すべきだと判断する。
サスケが自分を顧み、力に溺れる事がないように。
ナルトを守る力が欲しいと願ったサスケなら、きっと受け止め、己の糧に変えることができるだろうから。
「お前はナルトやサクラに先駆けて、中忍昇格前に一足早くオレの手を離れることになったからね。今まで通り、担当上忍としてのオレのフォローは続くが、一応、餞別代りに昔話でもしておこうと思ってね」
カカシの胸を今でも刺す悔恨を、サスケが抱える事がないように。
守り切る力の無いカカシよりも、強く、守る為の力を得られるように。
お節介であるのは、百も承知ではあるのだが。
表向きはカカシが責任を持つ事になってはいるが、それは名だけだ。
実質的には、サスケの身柄はヒルゼンが握る。
そこに否はないものの、少し複雑な気持ちであるのは確かでもある。
ナルトもサスケも、それにサクラも。
カカシが初めて合格させて受け持った子共達だから。
カカシの言葉に何を思うのか。
オビトよりは自制して、イタチよりは素直に自分の感情を表に出すサスケの黒い眼が、躊躇うように微かに揺れた。
そして、サスケにしては神妙な態度で、絞り出すように訊ねてきた。
「こんな所でか?」
既に、場所柄から、カカシの話が面白い物ではない事を察しているのだろう。
サスケの表情は嫌そうに顰められていた。
「こんな所でだからだよ。餞別だからね」
重ねて告げれば、さすが代々続く忍の家の子。
表情が改まった。
だからこそ、普段は漏らさないカカシの本音も、少し、漏らした。
「こんなに早くお前がオレの手を離れる事になるとは思っていなかったからね。話さずに済むならそれに越したことはないし、傍にいるなら、話さずに教えてやれると思ってたんだけど。どうも、お前の成長はオレにそれを許しちゃくれないようだから」
じっとサスケの目を見て、サスケの姿を目に焼き付ける。
きつく前を見据える強い視線が、サスケの父、フガクによく似ていた。
顔貌こそ、イタチ同様母親似で、父親であるフガクの面影が余り無いが、サスケの気性はきっと父親譲りだ。
とはいえ、カカシはサスケの母のミコトの事は、ミナトのかつてのマンセル仲間で自来也を師と仰いだ兄弟弟子であリ、ミナトの妻であるクシナの親友という事ぐらいしか知らないが。
いつ顔を合わせても、楚々とした物腰でフガクに寄り添う、儚げで嫋やかな微笑みを浮かべる、明るく朗らかなクシナとはまるで逆の、とても物静かな女性だった。
フガクとの結婚を機に、忍を引退したらしいが、その上品な見た目にそぐわず、ミナトに先じて上忍に昇格するほどの実力者でもあったらしい。
サスケの兄のイタチはきっと、あの繊細そうな実力者の女性に似た分、サスケは父のフガクに似たのだろう。
そんな感慨がカカシに浮かび、漏らすつもりの無かった事を漏らしてしまっていた。
「こんな時、フガクさんだったら、お前にどんな言葉をかけるだろうと思ったら、オレにはこんな事しかなくてね」
その瞬間だった。
思わぬ事を聞いたとでも言いたげに、サスケの目が開かれた。
「あんた、父さんを知っているのか!?」
思わず詰問してしまったのだろう。
直ぐに思い当たったように、サスケの視線が、眼帯で覆われたカカシの左眼に向いた。
そうして、素直に悪いことを聞いたとばかりにそっぽを向いたサスケの可愛らしい気遣いに、思わず笑みが零れる。
サスケのこんな可愛らしさを知っている人間が、この里に一体どれ程いるのだろう。
その数少ない一人のうちが自分であるという自負が、思わずカカシの口を軽くする。
「そりゃ、知ってるでしょ。同じ里の忍だし、フガクさんは警務隊隊長で、うちは一族の長だったし」
「っ!オレが言いたいのはそういう事じゃない!」
普段、あれだけナルトに口を酸っぱくして忍たるべしと説いているはずのサスケも、カカシの前では年相応にまだまだだ。
こうして容易くカカシのからかいの口車に乗って、直ぐに感情を露にする。
かっと顔を赤らめて睨み付けてきたサスケの表情に、うちは一族のくせにやけに直情的だったオビトの面影が過る。
そんなサスケの好ましい幼さを、及ばずながら傍で少しだけでも見守れたらと、そんな願いがカカシの胸にも生まれ始めていたのだけど。
状況は、カカシにも、サスケにも、それを許してはくれないらしい。
思わずカカシの手がサスケの頭に伸びた。
くしゃり、と、ナルト同様に掻き混ぜてやれば、即座にカカシの手を払い落として、顔を赤くして視線がきつくなる。
まだ幼くて、毛を逆立てた子猫のようにも思えるが、どんなに似ていたとしても、猫と虎は違う生き物だ。
だから、構いたくなる気持ちをそっと封じて、話すべきことを口に乗せた。
「それに、お前も知っての通り、この左眼は、かつてオレと同じスリーマンセル仲間だったうちはオビトが、オレにもう一人の仲間を守る為にオレに託してくれたうちは一族の写輪眼だからね。一族の人間でもないオレに託されたこのオビトの写輪眼について、うちは一族の長をしていたフガクさんには、当時から大分よくしてもらったし、随分親身に世話を焼いてもらっていたよ。お前が赤ん坊の頃、フガクさんにせがまれて、お前を抱かせてもらったこともある」
カカシの胸に、尽きせぬ後悔と、帰らぬ者への寂寥が過った。
「うちは一族ではないオレから、うちは一族の者であるオビトの写輪眼を回収するべきだとの声も、うちは一族内には少なからずあったに違いないのに、その声を抑えて、オビトが信じたオレを信じて、オレにオビトが遺したオビトの目を託し続けてくれていたんだ。それと同時に、フガクさんは、オビトが写輪眼を託したオレに、里とうちは一族を繋ぐ役割も託そうとされていたのだと思う。口に出してそれを言われた事はなかったが、そのように感じる事が多々あった」
その寂寥は、直ぐに自嘲にとって変わった。
「結局、オレには、オビトが託した願いも、フガクさんがオレに託してくれていた気持ちにも、応えて、叶えきる力はなかったが…。どちらも、オレには守り切ることができなかった…」
打ち沈んだ思いを鎮魂の願いに変えて、いつものようにカカシは慰霊碑に向き直った。
そうして、懺悔をするような面持ちになりながら、サスケに伝えようと思った己の過去の過ちの口火を切った。
カカシの失敗から、サスケが学んでくれる事を願って。
「オレの父親は白い牙と称されていた忍でね、仲間の命を守る為に掟を破り、中傷に耐え兼ねて自ら命を絶った。母親はオレを産んで既に死んでいて、オレの家は父一人、子一人だった。だから、里に一人きりで残されたオレには、常に好奇と嘲笑が纏い付いていた。そんな状況を見返すように、幼い頃から闇雲に修行に打ち込んで、オレは同期達より一足早く忍になった。エリート天才忍者なんて持て囃されていた事もあったよ」
かつての思い上がっていた己の幼さが、カカシは今でも許せない。
誰が許してくれても、自分が許す事が出来ないのだ。
そして、サスケを取り巻く評価は、そんなカカシによく似ている。
ナルトという、オビトにとってのリンのような存在がいる事だけが、カカシとは違うけれど。
だから、きっと、サスケはオビトのように道を誤らない。
けれど、カカシのように、間違う事があるかもしれない。
そんな懸念が、カカシの口に、らしくない事を吐き出させる。
「忍として必要なのは、他を圧倒する技量と掟の厳守。それだけが大切な物だとかつてのオレは考えていた。同期達がバカ騒ぎしているのを下らない事と決めつけて、そんな暇があれば修行をしていた。任務に必要のない物は、忍には必要ないと思っていたんだ」
そんな風に考えていたカカシを変えたのは、カカシとは正反対のオビトだった。
「そんなオレを変えてくれたのが、お前と同じうちは一族のオビトだった」
カカシの声に何を思うのか、サスケの気配が揺れる。
「うちは、オビト…」
サスケの口から洩れた押し殺した声音からは、何を思ったかは読み取れない。
だが、伝えるべきは、自らの悔恨だ。
カカシは瞑目して慰霊碑と向き直る。
「オビトは、両親が居なくて、婆さんに育てられたせいか、年寄りが困っているのを放っておけないお人好しな奴でね。それでちょくちょく任務前に手を貸していて、それが原因で任務に遅刻して来るまったく忍びらしくない奴だった。常々、火影になるという夢を口にしていて、当時のオレは冷めた目でそれを見ていた。忍として、守るべきものを碌に守り切れぬ奴なんかに、里の忍の全ての命を預かる里の長は務まらない。そう思っていた」
カカシの言葉を、サスケはじっと聞いている。
だからカカシは、そっと大切な物を打ち明けるように本当の気持ちを打ち明けた。
「だが、オビトの仲間を守りたいという気持ちは本物だった。それに、里の笑い者にされていたオレの父を、本当の英雄だとオビトは語った。仲間の命を守った者が蔑みを受けるのはおかしい。そんなおかしい里を、自分が火影になって変えてやるとね。その為に火影になるのだと、オビトはオレに語った。そしてその言葉を証明するかのように、危地にあるオレを救う為に写輪眼を開眼させ、瞬く間に戦況を打開させていった。オレが見捨てかけた、敵に攫われたオレ達のマンセル仲間のリンの事も、オビトは救い出して見せたよ」
「のはら、リンか…」
カカシがあげたリンの名に反応したサスケに、カカシは少し驚いた。
「何故お前がリンの名を…」
思わず振り返り、ばつが悪そうに視線を逸らしたサスケに、なるほどと納得する。
サスケにその名を知らせる相手は、サスケの守りたい相手であるナルトしかいない。
幼くして自分が四代目の子である自覚を持っていたらしいナルトは、忍としての修行にかこつけて、常々、父である四代目の名残も追っていたのだろう。
「そうか。ナルトか」
思わず苦笑を漏らしたカカシは、つい、思った事を口にした。
「お前は、少しオビトに似ている」
「オレが!?」
酷く動揺を見せたサスケに、かかしは頷いた。
「ああ。仲間を守る為にあっという間に誰よりも強くなる。それこそがうちは一族が天才と呼ばれ、図抜けた才を見せる本当の理由だったのかもしれない。オビトはね、リンの事を好いていて、だからこそ、誰よりもリンの事を守ろうとしていた。火影になろうとしていたのも、リンを守る為だったのかもしれない。リンの居る、オレ達の暮らす木の葉ごと、あいつは全てを守ろうとしてたのかもしれない。お前が、ナルトを守っているようにね。そういう所がそっくりだよ。何気なく失言して守りたい相手を怒らせたり、素直になれなくて、自分の言葉を全部飲み込んで、ただ黙って傍に居るような所もね。まあ、もっともオビトは気になる相手を罵倒したり、手を上げたりするようなことは絶対しなかったけど。お前のその乱暴さと口の悪さは誰に似たの」
昔から、機会があれば常々刺そうと思っていたカカシの釘に、むっすりとサスケが黙り込んだのが分かった。
むっと口を尖らせて、そっぽを向いて不貞腐れている。
だが、カカシにもサスケの気持ちは分かる。
ナルトは口で言い聞かせて、それで容易く止まるようなタマじゃない。
そういう所が不器用なサスケが苛立って、ついつい手が出てしまっても仕方ないだろう。
まだ、サスケの中でも、異性としてのナルトの扱い方が定まりきっていないせいもあるに違いない。
なんだかんだ、サスケとナルトの距離は、昔からとても近いのだから。
手を挙げられて、抗議しつつも、サスケに構われるのが嬉しいと言わんばかりに、嬉々としてサスケに懐いて纏い付いて行くナルトの笑顔を思い出す。
あれを思えば、カカシの忠告は、ただのおせっかいかもしれないが、改められるなら改めていた方がいいと思う。
サスケのナルトにかけている言葉は、誤りではないし、忍として生きるならば必要なことだ。
ただ、忍とはいえナルトは女の子だ。
こういう事が原因で、サスケがナルトに男として意識され無くなるのは、それは少し、可哀そうな気もしなくもない。
こういう事はカカシが口出しすべきことでもないのだろうが、それでもナルトを守りたいのはカカシもなのだ。
それに、サスケのいじらしい気持ちは昔から筒抜けだった。
ナルトを大切にしているようなのも、カカシはきちんと知っている。
そして、ナルトにもサスケにも、こういう事を諭す人間が欠けている事も。
柄ではないと、カカシ自身も思わなくもない。
しかし、暗部としての任によって、幼い頃から見守り続けてしまったせいか、良くナルトと行動を共にして、密かにナルトを里人の悪意からさりげなく遠ざけ、陰で守り続けてくれていたサスケにも、個人的な情は湧いてしまっている。
サスケはカカシがしたくてできない事を、ずっとナルトにし続けてくれていたのだから。
オビトと同じ、うちは一族の生き残りである、うちはサスケが。
ミナト先生の娘で、クシナさんと同じ人柱力の、うずまきナルトに。
そんな二人に表立って関りを持ち、担当上忍として受け持つことになった事は、カカシとしても、とても感慨深い事だ。
口に出してそれを誰かに伝えるつもりはさらさらないけれども。
それにしてもだ。
改めて、カカシの指摘に隠しきれていない拗ねた素振りのサスケに目をやれば、そんな風に、自分の都合が悪くなると眉を顰めて黙り込むところも、やはりオビトに良く似ていると気付く。
血縁ではなかったはずだが、サスケもオビトも腐っても同じ『うちは』という事なのか。
目の前で黙り込んだサスケに、もう一つ見つけてしまったオビトとの共通点に、カカシは思わず苦笑する。
なんでもかんでもオビトとリンに結び付けるのは、カカシの悪い癖だ。
自覚はある。
だが、それはいけない事なのか。
分からないまま、言葉を紡ぐ。
「なのにオビトは、オレなんかを庇って、致命傷を負い、オレにリンを託し、リンを守る為にこの左目の写輪眼を託してくれたんだ」
オビトとリンは、もう、居ない。
カカシには、守れなかった。
分かっている。
分かってはいるが。
「だが」
「あんたは、最後まで尽力したと聞いている。命令を無視して、単独で敵陣に乗り込んでまで、のはらリンを助けるために動いていた筈だ。それはあんたのせいじゃない」
そのまま機械的にカカシの悔恨を口にしかけた時、一足先に、サスケが口を開いた。
まるでその先は言わせないと言わんばかりに、強い瞳と強い口調で。
思わず素直に驚きが浮かぶ。
「それも知っているのか」
「ナルトに付きあわされて、四代目に関わりのある忍の経歴はあらかた調べさせられた。知っているのはあんたの事だけじゃない」
思わぬ暴露に、カカシは思わず閉口した。
一体、いつの間に。
そんな素振りは、暗部としてナルトの監視と護衛の任に付いていた時は、全く窺い知れなかったのに。
もっとも、常にカカシだけが付いていた訳ではないけれど。
「あんたは昔からナルトの傍に付いていた時、きっちり自分の仕事をこなしていたからな。あんたの時は避けていた。だが、あんた以外の監視役は役立たずばかりだった。殆ど全員、オレ程度の幻術で、どうとでもできる程度の奴らばかりだったからな。あんた以外の大抵の監視役を撒いて動くのは実に簡単だった」
その疑問に答えるように、驚天動地の新事実を更に投下され、カカシは思わず硬直した。
険しい表情で、聞き捨てならない情報を口走ったサスケを問いただした。
「…どういうことだ?」
「ナルトの遊びだ。あいつは自分が里からも命を狙われている事を知り尽くしている。チャクラを匂いで判別するなどという、特殊な感知タイプでもあるあいつに、暗部が誰で、誰が今監視に付いているかなど、隠し通せるはずもないだろう?チャクラの匂いとやらをどうやって消すんだ。そして、自分の命を狙う里の人間の裏を掻く力を付ける為に、昔からずっとあいつはそいつらを利用し続けていたと、そういう事だ。もっともオレも、それに便乗させてもらっていたけどな。それにこれは、爺さんも昔から承知の事だ。ナルトはそれを知らないがな」
しれっとした表情で、サスケは暗部と里にとって、かなりの問題発言をしているが、間近で見知ったサスケとナルトの力を得る為の貪欲さ具合に、否定できる要素がどこにもなくて、カカシは再び沈黙した。
確かに、サスケの言う通り。
チャクラの『匂い』など、隠蔽するのは不可能だ。
体臭などでさえ、完全に隠しきるのは困難なのに、それがチャクラとなると、完全にお手上げだ。
恐らくは、尾獣と幼い頃から同調しすぎた人柱力であるせいだろう。
ナルトの五感は、忍の物を超えて、尾獣に近いものに育ってしまっているのかもしれなかった。
それに。
ふんわりとした穏やかな佇まいと、基本的におっとりした性格に反して、昔から、本質的に、ナルトはかなりのお転婆娘だった事を思い出す。
無邪気に無茶を無茶と思わず、けろっととんでもないことをあっさりと躊躇いなく実行してしまう。
それこそ、無茶を当たり前のように穏やかに提案して、到底不可能と思える事すら、さらりとこなして、大抵の事はあっさりと実現させていたミナトのように。
勿論、ミナトの行いが全てが実現した訳でもなく、実現しなかった事もある。
その場合の被害は通常の非ではなく、大抵それは、ミナトの性格的なものからくるうっかり等が主な要因として誘発されていた物だったのだけれど。
普段からの、生真面目さと優秀さと穏やかさに、大抵の人間は皆騙されていたが、あの人はけっこうな天然ボケのうっかり者で、かなり鈍臭い一面を持っていた。
やらかした事もその規模も、並大抵の規模ではない。
ミナトの打ち立てた功績の数々の輝きに隠れているが、そのうっかりと鈍臭さは、人として、かなり心配になるLvだ。
それを良く知るカカシの目が、思わず遠のく。
ミナトの妻のクシナだとて、どちらかといえばかなり無鉄砲な行動力のある人間だった。
思い込んだら一直線の。
それも思い出し、遠い目が、更に遠くなる。
これは、既にどうしようもなく、とんでもない事になっているのではあるまいか。
身近で接して、そんな二人にそっくりの内面を備えている事を確信してしまっているナルトを思い出し、カカシは急にとてつもない不安を覚えた。
思わず、サスケに話す予定ではなかった、ナルトへの個人的な懸念の理由が口を吐く。
「……里の中では英雄だなんだと持てはやされて、それに相応しい実力も、頼りがいのある生真面目な人格も備えていたが、ミナト先生は、実は、結構なうっかり者の天然な人でね。ここ一番で、ありえないミスをしょっちゅう連発するような人でもあったんだ」
カカシが漏らし始めた内容に、サスケの気配が怪訝そうになる。
「戦争中、先生の班に降された、起爆札が重要なカギになる任務で、緻密で綿密で完璧な作戦と下準備を完全に済ませて、いざ実行しようと現場に到着したその段階で、肝心のその起爆札を、自分達が一枚も持って来ていなかった事に、その場で漸く気が付くような…」
遠い目のまま、ぽろりとカカシの語った、かつて実際にミナトがやらかした事の内容に、サスケが眉を顰めて、何とも言えない微妙な表情になった。
そういった事に、自分にも身に覚えがあると言わんばかりの。
今のサスケのその気持ちを、カカシは誰より理解していると確信があった。
それでも何となく後ろめたくて、そっとサスケから視線を外しつつ、ミナトのフォローの言葉を挟む。
「勿論、そういう失態を、その場で即興でフォローして、元々立てられていた計画以上の最良の結果を叩き出すような強運と実力を備えていた人だったから、里から四代目火影に選ばれて、火影の座に就任されていたのだけど」
カカシ自身、ミナトの傍で良く感じて素で突っ込んでいた、あの何とも言えない脱力感を、最近、久方ぶりにたっぷりと味合わされた。
他でもない、ミナトの娘のナルト自身に。
あれだけ率先して自発的に文句なしに感知タイプに相応しい働きを自らこなしていながら、まさか、長年、自分自身が感知タイプであると自覚していなかったとは、流石に思いもしていなかった。
サスケも思っていなかったに違いない。
あの時のサスケの悲鳴じみた激昂は、昔から暗部として二人の身近にいたカカシでも、先ず、聞いた事も無いものだった。
あれは、あのナルトの自分を知らないあの鈍感さは、紛れもなく父親のミナト譲りだ。
まず、間違いない。
ミナトほど、実力と内面の落差が激しく、自分を知らない自己評価の低い変な人を、カカシは知らない。
あの人自身はいつもどこでも何事も、心の底から真剣で、真面目以外の何物でもなかったからこその、不運で悲劇だったと言わざるを得ない。
いや、時折ミナトのやらかす結構な頻度の『うっかり』の数々を思えば、自己評価のその低さも致し方ないLvだったのだけど。
それに。
「そんなミナト先生を、常にフォローして傍で支えていた奥さんのクシナさんは、普段は明るくて朗らかなさっぱりした気性の優しい人だったんだけど、実は赤い血潮のハバネロという異名で恐れられた、鉄火気質の喧嘩っ早い人だったんだ。激昂すると、誰も逆らえないほど怒り狂って、彼女が納得するまで手が付けられなかった。二人とも、基本的にかなり単純で、人が良すぎる楽観的な人達でもあったんだけどね?」
カカシの独白に、こちらも心当たりがあるのだろう。
サスケの眉間に、更に皺が寄った。
カカシも思う。
身近で見知ったナルトの内面は、あまりにも両親であるあの二人に、要らない所がそっくりすぎる。
環境的に致し方ない部分を差し引いてもだ。
故に。
「正直、オレは、ナルトの今後が不安でね…」
カカシが傍に居てやれるうちはいい。
だが、ナルトは女の人柱力という危険な立場に置かれざるを得ない身の上で、カカシには、里の上忍という立場がある。
そこを超えて、カカシはナルトに手を貸せない。
そうして、カカシにできないそれを求めるには、目の前のサスケも若すぎて未熟過ぎるし、望めない。
望むわけにはいかないだろう。
サスケにも、サスケの人生がある。
なのに、何故、今、カカシはサスケにこんな話をしているのか。
「すまない。忘れてくれ。今、お前にこんな話をするつもりでは…」
「いや。構わない」
我に返って自嘲しながら眉間を抑えたカカシの声を遮り、やけにきっぱりとサスケが断言した。
思わず顔を上げる。
「前にも話したが、ナルトはうちはの人間にする。あんたがナルトを心配する必要はない。あいつの事はオレが全て責任を持つ」
まっすぐにカカシを見つめて、堂々と繰り返し宣言された内容に、ちょっぴり反感と苛立ちが浮かぶものの、それでも内心、かなりほっとして、安堵してしまったことを認めない訳にはいかなかった。
サスケもまだまだ尻の青いお子様だというのに。
それでも、ナルトがかなり深く心を許して懐いているサスケが、ナルトの傍で、ナルトを見ていると心に決めてくれたのなら、カカシとしても非常に安心だ。
面白くない気持ちもあるにはあるが、サスケ以外の誰かを思い浮かべるだけで、サスケ以上に面白くない気持ちと反感が、サスケの比ではないくらいに湧いて来てしまうのだから。
それに、ナルトがいつ、どこで、どんなうっかりで何をやらかすかは全く分からないが、サスケのその宣言で、複雑な立場に立つナルトがやらかした時、徹底的に孤立することだけはないと知れたのは収穫だった。
他でもない、意地っ張りでプライドの高いサスケがそう言うのだ。
ナルト自身の気持ちはさておき、サスケの方は本気なのだろう。
サスケ自身も、相当複雑な立場に立ってはいるのだけれども。
「そう…」
サスケの決意を秘めた強い眼差しに、カカシは言葉少なく相槌を打つ。
そう言ったサスケの気持ちを疑う訳ではない。
そういう訳ではないのだが。
けれど。
「…イタチの件は、もう、良いのか?」
そこは、きちんと問い質しておかねばならない所だ。
目に見えてサスケの視線が、強く、表情もきつくなる。
カカシも、うちはの件は何も思わない訳じゃない。
気付いていない訳でもない。
それでも、里が平穏にある為には、見てはならないものがあるのも、考えてはいけない物があるのも、気付いてしまってはいけないものがあるのも確か過ぎて。
そうして。
知ってしまえば、それを飲み込むのにどうしようもなくなって。
知らないならば、知らないままでいた方がいい。
そう思うそんなカカシの感傷を、オビトと同じ強い光を宿すサスケの黒い瞳が打ち破って断言した。
「だからこそナルトはオレの傍に置く。『木の葉』は信用できない。ナルトは『うちは』の人間だ。既に一度認めた事を、無かった事には今更させない」
絶対に、と。
無言で語るサスケのその瞳に籠る意志の力強さに、カカシは何も言えなくなった。
ヒルゼンから、里とサスケについての腹案を明かされているから尚の事だ。
悩んだ末、カカシは直感に賭ける事にした。
「…本当は、お前には、もっと別の話をするつもりだったんだけどね」
それでも、サスケの決意は本物で、サスケもオビトと同じ、何かを守ろうとする為に力を尽くすうちはの人間だから。
守るべきものを守ろうとする、愛情深いうちは一族の。
瞑目して、感傷と感慨を切り捨てて、そうして、目を開いて、サスケを見つめて、カカシの予定になかった、忍としてのサスケへの試金石となる一矢を放った。
「サスケ。ナルトの為に、里の体制を作り直す必要があるとしたら、お前はどうする」
「愚問だな。オレはうちはだ。必要とあれば、障害は全て焼き尽くすまでだ」
即座に返ってきたサスケの答えの過激さに、オビトとの差異を見つけて、サスケの持つ荒々しいまでのその激しさに、かつてのうちはマダラの数々の逸話と懸念が過らないでもないけれど。
「…そうか」
それでもサスケのその答えの底にあるものに、何をおいてもリンを守ろうとしていたオビトと同じものを確かに感じたから。
だから、カカシは、忍としての自分を殺した。
「ならば、聞け」
そうして、全てを当然とばかりに淡々と受け入れたサスケに、火影からの他言無用の極秘任務の概要と目的を、サスケに告げた。
全て、カカシの独断で。 
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