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武装神姫 ~心と心の最前線(Front Line)~

作者:太陽と月
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第一章 『ユウナ』
  第8話 経験

 「ふふっ。それでですね、咲さん。」

楽しそうな声が私の部屋から聞こえてくる。

ガチャッ 「あっ、マスター、パソコンありがとうございます!」

彼女は今神姫NETを通して咲と会話中だ。彼女にはあらかじめパソコンの使用を許可しているので問題はない。神姫が過剰にマスターのプライバシーに干渉しないためにそのような措置が取られているのだ。

 「マスターもだいぶ強くなってきて、次は準決勝ですよ!」

「うん・・・、良かった・・・、いつ?」

「明日の午後からです!」 「なら・・・、今度こそ・・・、見る。」

 F3大会は正直なところ大きい大会ではない。この後に勝ち抜いてきた人たちが戦うF2とF1大会もあるため全国各地で小規模で開かれているのがF3大会だ。勝ち上がることができた者のみが上に進むことができる。だが、どんな規模であったとしても、まだまだ初心者の私たちにとっては大きな大会であるのに変わりはなかった。今の力がどれ程通用するのか知ってみたい、もっと成長したいという気持ちで挑んできたF3大会も気づけば準決勝まで勝ち進んでいた。普段からF2常連者と言われているゲンさんに絞られているがゆえにまずまず戦えていたようだ。相変わらずゲンさんに勝つことはできないのが現状ではあるが・・・。戦っている相手がゲンさんではないとはいえ、勝ち続けているのがとても嬉しくて、今の私は少し慢心していた。どうせ次の相手もゲンさんと比べたらたいしたことはないと。

 「絶対・・・、勝って。」 「はい!」

 「今のマスターならきっと大丈夫です。あの時以来、慎重に戦えるようになりましたし。」

 「・・・!? 戦いは・・・、一人じゃ・・・、ない。」

 「・・・? それはもちろんですけど・・・。 (そういえば以前、ゲンさんにも同じことを言われたような。)」


F3準決勝戦当日・・・


「全く、美しさが欠けていますわ!そのような程度で私(わたくし)に、いえ、私(わたくし)たちに挑もうなど100年はおろか、1000年も10000年も早いですわ!」

「ちょっと、やめなって。 私達だってバトル始めて日が浅いほうじゃん。」

「まぁ!マスター!謙遜の心で相手を気遣えるなんて素敵すぎます!流石!私(わたくし)のマスターですわ!」

結果は対戦相手の神姫(イーダ型)の様子を見れば一目瞭然だった。こちらの攻撃はことごとく防がれ、避けられ、為す術がなかった。相手の動きはどれも適切で、それだけならまだしもどの動きも思わず美しいと感じ、戦いへの集中が途切れてしまうほど見とれてしまっていた。オーディエンスは特別騒いでいるわけでは無いようだが、間近で、しかも対戦相手として見ていた私からすると・・・。

「マスター!大丈夫でしたか?・・・、はい。今日はお疲れさまでした。完敗してしまいましたね。」

「・・・っまぁ!聞き捨てなりませんわ!なんと見苦しいことでしょう!たった一度負けたぐらいで何を惨めになっているのですか!」

「えっ、でも負けてしまったことは事実ですし・・・」

「ですから!・・・、いえ、別に構いませんわ。私(わたくし)は美しいものにしか興味ありませんの。そのようなみすぼらしい姿を平気でさらせるなんて、正気の沙汰ではありませんわ!」

「ちょっと、言い過ぎだって。勝った人は傲慢になるためにいるんじゃないっていつも言ってるでしょ?」

「あぁん!マスター!私(わたくし)はマスターの愛をいつでも受け入れる準備ができていますわ!さあ、なんなりと、どのような愛でも!」

「はぁ・・・。また始まっちゃったよ。えっと、ごめんね?根は悪い子じゃないから、許してくれると助かるかな。バトルできて楽しかったよ。勝った私からこんなことを言うのもなんだけど、次に会うときはこの娘が言う『美しい』ってのになってるといいね。」

「マスター♡・・・マスタ~♡・・・」

彼女たちが壇上から降りていった、自分たちも降りよう。

「えっと、強烈な方たちでしたね。全く歯が立ちませんでした。F3大会にもあのように強い方々がいらっしゃるのですね」

無理もない、結奈の声に元気がないのは明らかだった。結奈には自信があり、自分自身も勝てるものだと思い込んでいた。この惨敗様はゲンさんの時以来だ。決勝戦まで連勝していた分、「自信」を通り越して「傲慢」になっていたのだろう。傲慢が油断を生み、油断が敗北へと導いた。反省しなくてはならないと頭のどこかでは考えているのだろう。だが、とてもではないがそんな気分ではない。自分への恥ずかしさ、相手への嫉妬、なぜか湧き上がる誰に向けていいのかわからない憤り・・・。ここまでめげてはいてもやらなくてはならないこともある。早めに大会の終了手続きを終わらせて家に帰ろう。

「お疲れさまでした。惜しかったですね、決勝戦まで残ればF2出場権を獲得できていたのですが・・・。ですが、F3大会は年に2回ありますので、頑張ってくださいね。」

受付にて衝撃の事実を知り自宅へ戻った・・・。

「って、えぇ!!?マスター、ご存知で無かったのですか!?私の方がもっとびっくりしましたよ。でも、マスターの場合は知らなかったが故に緊張せず戦えていたのかもしれませんね。とにかく、作戦会議です!次こそは、勝ちますよー!!」

どれだけ落ち込んでいても明るく振る舞ってくれる。切り替えが早いのか、自分の為に元気づけてくれているのか・・・。確かにその日、大きな壁を感じた。だが、自分の成長を感じ取ったのも事実だ。そもそもこの大会に出場したのは自分の現状のレベルを知るためだった。今は自分を振り返り、認め、次に生かそう。次のレベルに到達するために。
 
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