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八条学園騒動記

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第五百四十話 快適な旅その十

「詠む度にな」
「大菩薩峠とか」
「太宰治のグッドバイはそうでもなかったが」
 この作品はというのだ。
「もう太宰はあの時死ぬことを決意しておったからな」
「自殺したんだよね、あの人」
「人間失格を書いてな」
 それを書き終わってというのだ。
「もうじゃ」
「死ぬことを決めていたから」
「もう作品自体に出ておってな」 
 人間失格を書いた後の作品であるグッドバイにというのだ、尚この作品のタイトルの言葉はヴィヨンの妻という映画で効果的に使われている。
「それ程感じぬが」
「大菩薩峠には」
「三十年も書かれたな」
「ライフワーフだね」
「そうであっただけにな」
「作品からだね」
「途中から時間の流れがループしておるが」
 幕末から明治に入り架空の世界に入りだ。
「それでもじゃ」
「作品としてだね」
「終わりたかったのじゃ」
「そうだったんだね」
「作品はまことにじゃ」
 博士はタロに話した、今は言葉を出していないライゾウにも。
「完結させねばじゃ」
「駄目なんだね」
「多少書いて飽きるなら」
 それならというのだ。
「最初から造るべきでない」
「そこちょっと厳しくねえか?」
 ライゾウはここで再び口を開いて博士に言った。
「どうも」
「いや、やはりな」
「完結させるか完成させねえとか」
「何でも駄目じゃ」
「博士の兵器もか」
「だからいつも完成させておる」
 造ったそれはというのだ。
「必ずな」
「未完成の作品はないんだな」
「一作もな」
 それこそというのだ。
「実はな」
「二百億年の間か」
「そうじゃ」
 まさにというのだ。
「そうしておる」
「そうなんだな」
「そうじゃ、そしてじゃ」
 博士はさらに話した。
「小説もな」
「やっぱりか」
「完成させんといかん」
「そうなんだな」
「もっとも大菩薩峠は仕方ないところもあった」
 中里介山が完結させられなかったことはというのだ。
「どうしてもな」
「お母さんが死んでか」
「それでショックを受けて」
「そうじゃ」
 このことがあってというのだ。
「創作は些細なことで阻害される場合もある」
「だからか」
「それでか」
「そうじゃ、だからな」
「あの人もか」
「書けなくなったんだね」
「うむ、三十年書いた作品が書けなくなる」
 このことはというのだ。
「やはり相当じゃしな」
「じゃああれかな」 
 タロがまた言った。
「ちょっと書いて飽きて書かなくなるとか」
「それはじゃ」
 まさにとだ、博士は答えた。
「また違う」
「そうなんだね」
「創作はそれなりの気持ちで挑まねばならん」
「軽い気持ちじゃ駄目なんだ」
「左様」
 まさにというのだ。
 
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