八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第二百四十六話 ビロードその九
「鴎外さんみたいに出世の波には乗ってないしね」
「エリート街道歩んでいないのネ」
「学校の先生としてのお給料は凄かったらしいけれど」
それでもだ。
「鴎外さんと比べるとね」
「負けてるノ」
「だって鴎外さんは」
この人はというと。
「陸軍軍医総監だから」
「軍医さんのトップネ」
「当時の日本医学界の権威だったから」
このことは間違いなかった。
「その人と比べると」
「流石ニ」
「うん、ただ権威だったから鴎外さんは」
「脚気でやらかしたのネ」
「もうあんまり権威主義で頑固で」
頑迷と言っていいまでにだ。
「陸軍のトップのトップの」
「鴎外さんよりさらに上の人達ネ」
「山縣有朋とかね」
幕末にちらり、維新ではそろそろという具合に出て来る人だ。人気は生前からさっぱりという人だった。
「あの人達が呆れて麦飯を認めたらしいよ」
「もう海軍ではっきりしてたかラ」
「だからね」
それで軍人さん達が脚気にならないなら軍全体を預かる人としてはいいに決まっている、脚気菌が見付からなくても。
「もうそれでいけってね」
「鴎外さんの頭の上から言ったのネ」
「そうしたことになったんだ」
「何か鴎外さんっテ」
ここまで僕の話を聞いてだ、ジューンさんはどうかという顔になった。
そして僕と一緒に校舎と校舎をつなぐ三階の渡り廊下を歩きながらそのどうかという顔でこうも言った。
「作家さんとしてはともかク」
「お医者さんとしてはね」
「よくなかったのネ」
「僕もそう思うよ」
「そうよネ」
「だからうちの学校ではね」
八条学園ではだ。
「よく言う先生少ないんだ」
「そのことがあるかラ」
「それでだよ」
「ちゃんとした理由があるかラ」
「そう、それに人としても」
人間としての森鴎外もだ。
「ドイツ崇拝が極端だし」
「ドイツ留学しテ」
「息子さんや娘さんに無理にドイツの名前にしたから」
「そうしたこともしたノ」
「漢字を当て字にしてね」
今で言うキラキラネームだろうか、その元祖はこの人だったのだろうか。
「そうもしてるし爵位貰ってないのに」
「華族じゃなかったノ」
「それなのに外国への手紙でバロン森とか書いたり」
「そうした名前の漫画のキャラクターいなかっタ?」
「いたよ」
アストロ球団という壮絶な野球漫画だ、もう野球というよりかは超人達のグラウンドでの必殺技の応酬だった。
「多分それがね」
「名前の由来なのネ」
「うん、あとファザコンでマザコンで」
とにかく両親には弱かったらしい。
「湯舟に入らなかったし」
「シャワーなかったのよネ」
「湯舟には細菌が一杯いるからって」
「そこでも細菌なノ」
「当時のお風呂は実際にそうだったけれどね」
それで性病がお風呂からも感染していた。
「それととにかく出世欲がね」
「強かったのネ」
「権力欲とか名誉欲とか」
「何か生臭いわネ」
「なまじそうした道にいたから」
エリート街道、軍医のそれにだ。
ページ上へ戻る