占術師速水丈太郎 死の神父
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第一章
占術師速水丈太郎 死の神父
最初に東京の自分の店でその話を受けて速水丈太郎はすぐに整った右目に嫌悪を浮かべさせて依頼主にこう言った。
「受けずにいられないお話です、ですが」
「それでもですか」
「嫌なお話でもありますね」
依頼主である白人、白髪を後ろに撫で付け灰色の目を持つ初老の男に答えた。顔の彫は深く顔立ちは整っているというよりは穏やかな気質と深い知性を感じさせる。着ているスーツはネクタイも含めてシックな色だ。
「私にとっては」
「こうした輩と対することはですか」
「はい、狂気ですね」
速水は自分の席に座ったまま向かい側の席に座っているその穏やかさと知性を感じさせる男に述べた。
「人間の。これは非常におぞましいものです」
「私の話からそれを感じ取られましたか」
「左様です、ですから嫌なお話を言ったのです」
おぞましさ、それを感じさせる人間の狂気を感じ取ったからだとだ。速水は男に右目に嫌悪を漂わせたまま答えた。
「この様に。ですが」
「それでもですね」
「同時に受けざるを得ません」
このことも再び言うのだった。
「何としても」
「そう言って下さいますか」
「はい、今もかなりの犠牲者が出ていますね」
速水は男にまた問うた。
「左様ですね」
「無念なことに。ですが我等の退魔師達もです」
「今はですね」
「近頃欧州は物騒で」
「ただ難民に紛れ込んでいるテロリストだけではなく、ですか」
「魔が混乱に乗じて出て来て」
そうなってしまっていてというのだ。
「それで、です」
「魔と戦える方を送れませんか」
「彼に対することが出来るだけの者は」
「それで私に、ですね」
「お願いしたく参上しました」
男は速水に確かな声で答えた。
「報酬は事前にお渡しします」
「私の口座に振り込んで頂いてくれますか」
「円にして十億です」
それだけの額の報酬だというのだ。
「そうさせて頂きます」
「十億ですか」
「より高額をご希望なら」
「いえ、充分過ぎます」
速水は報酬のことには文句はなかった、むしろ過ぎると言わんばかりだった。だからそのことについては言わなかった。
それでだ、男にもこう答えたのだった。
「十億確かに」
「受けて下さると答えられた時点で振り込まさせて頂きます」
「では宜しくお願いします」
「受けて下さいますか」
「先程申し上げた通りです」
「受けざるを得ない、ですね」
「はい、すぐにそちらに向かわせてもらいます」
確かな声でだった。速水は男に答えた。
「クロアチアまで」
「それでは」
「しかし。バチカンから枢機卿が自ら来られるとは」
速水は男に返事をしてからその男を見てそうして彼にこうも言ったのだった。
「思いも寄りませんでした」
「事前に日本に入り大司教から連絡がありましたが」
「しかし枢機卿猊下です」
かつてはその権勢は王侯にも匹敵すると言われていた、バチカンにおいて法皇のすぐ下に位置する緋色の法衣を着た最高位の聖職者である。
それでだ、速水も男に言ったのだ。
「そこまでの方が来られるとは」
「法皇猊下もそれだけ深刻にお考えなのです」
「クロアチアのことをですね」
「そうです、ですから」
それ故にというのだ。
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