夢幻水滸伝
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第百十話 争わずともその八
「ほんまに」
「あんたもそう言うけえ」
「そりゃ逆ナンって嬉しいですよ」
李は男としての感情も述べた。
「それは」
「そうじゃのう」
「けれどですよ」
「それでもって言うんじゃな」
「はい、露骨に声をかけられたら」
それはというのだ。
「やっぱり引きますわ」
「そうなんじゃのう」
「はい、僕でも」
こう言うのだった。
「そうなりますで」
「わらわは婿探しをしてるんじゃ」
碧にしてみればそうだというのだ。
「相手が決まったら浮気はせんしのう」
「あくまでお一人だけですか」
「一夫一妻じゃけえのう」
碧は頬を赤くさせてこうも言った、両手はその頬に添えている。
「旦那様と死ぬまでじゃ」
「一緒にですか」
「そうじゃ」
広島弁でこうも言うのだった。
「それがわらわの夢じゃけえ」
「ご主人とお二人で」
「夫婦円満でじゃ」
それでというのだ。
「過ごすのがじゃ」
「先輩の望みですか」
「そうじゃけえ」
「何ていいますか」
「あのですね」
天狗の翼を生やした女である、天狗族のせいか鼻はやや高いがアジア系の整った顔である。ただし肌はやや褐色がかっている。服は薄い感じの黒い長そでの上着と半ズボンで足はダークグレーのタイツで覆っている。足は黒ブーツだ。人煞星ビクトリア=ペドリーチェである、東ティムール出身で職業はシーフであり持っている神具は柄の回りに半月状に波がかった刃がある蝶のナイフという武器だ。あらゆるものを切り裂き投げるとブーメランの様に戻って来る。
「頭目のそのお考えはいいとして」
「夫婦揃うてはいいのう」
「はい、ですが」
「逆ナンはというのじゃな」
「私もそう思います」
「そうたい」
美鈴も碧を咎める顔であった。
「碧ちゃんは自重するとよ」
「あんたもそう言うけえ」
「何度も言うたい、折角こっちの世界でも可愛いとよ」
「起きた世界でもじゃな」
「そうたい、けれどたい」
「逆ナンはどうしてもか」
「止めておくべきとよ」
こう言うのだった。
「本当に」
「とはいってもじゃ」
「というか許嫁おらんか?」
美鈴は碧にかなり本気で尋ねた。
「あんたの家は結構な家じゃのう」
「商人の出で由緒はないけえ」
「いや、明治から大きくなって」
この辺りは維新からの事業に成功してのことだ。
「広島の財閥だったって聞いてるとよ」
「それはそうじゃがのう」
「そうした家は許嫁とか決めてるじゃろ」
「相手は自分で見極めて手に入れろってのがじゃ」
「碧ちゃんの家の家訓とよ」
「そうじゃけえ」
その通りだというのだ。
「だからわらわもじゃけえ」
「お婿さん探してるとよ」
「そうじゃけえ」
その通りという返事だった。
「それでうちもじゃけえ」
「お兄さんも弟さんもたいな」
「代々じゃけえ、ちなみにお母さんはお寿司屋さんの娘じゃった」
「それで、ですよね」
今度は猿人、赤毛でラテンの趣が強い白いシャツと黄色いズボンの男が言ってきた。その口には黄色い薔薇がある。人魁星サミー=ガルパンである。ドミニカ出身で職業はダンサーである、手にしている神具は履いていると誰よりも素早く動けるアルフォンスカの靴だ。
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