戦国異伝供書
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第五十八話 出家その九
「早く会いたい」
「そうでありますな」
「そしてあの者もじゃ」
「軍勢に入れますな」
「無論、しかしな」
信玄はここでこうも言った。
「長尾殿は海津城を攻めぬな」
「そのことですな」
山縣が応えてきた。
「どうもです」
「あの御仁は城攻めよりもじゃな」
「合戦で、です」
「わしと決したいな」
「これまで海津城を攻めたことはありませぬ」
「これといってな」
「長尾殿が攻められても源助殿ならば持ちこたえますが」
それでもというのだ。
「逆に言いますと」
「あの御仁から攻められて城を守れるのはな」
「当家ではです」
「あの者だけじゃ」
高坂だけだというのだ。
「生きて守れるのはな」
「左様でありますな」
「だからこそあの者を置いておるが」
「長尾殿は既に読んでおられるらしく」
「それでじゃ」
「あの城はあえて攻めず」
「常に合戦を挑もうとしてきた」
それで川中島まで来ているというのだ。
「そしてこの度もな」
「そうなりますか」
「おそらくな、もうあの場のことはわかっておる」
川中島のというのだ。
「大事なのは勝つことであるが」
「最悪、ですな」
馬場が言ってきた。
「負けぬこと」
「そうじゃ、このことがだ」
まさにというのだ。
「大事でな、将兵達もな」
「死なぬことですな」
「そうじゃ」
まさにというのだ。
「それが大事じゃ」
「だからですか」
「わしは出来るだけ兵達を死なせたくはないしお主達もじゃ」
こう諸将に言うのだった。
「死なせたくはない」
「だからでありますか」
内藤が信玄に応えた。
「この度も」
「勝つがそれが無理ならな」
「負けぬ」
「そしてじゃ」
「我等をですか」
「死なぬ様にな」
まさにというのだ。
「そうしたい」
「そうでありますか」
「死んでは元も子もない」
「我等も」
「わしにとっては宝じゃ」
だからだというのだ。
「まさに人こそがじゃ」
「お館様の宝だからこそ」
「失いたくない、それでじゃ」
「この度の戦でも」
「お主達を失わぬ、その鍵は」
信玄は今度は幸村を見た、そうして彼に言うのだった。
「お主じゃ」
「それがしでありますか」
幸村も信玄に応えた。
「そう言われますか」
「実際にそうじゃ、お主の武勇があればな」
それでというのだ。
「危うい者の命も救ってくれよう」
「お館様がそう言われるのなら」
「やってみせてくれるか」
「それがしと十勇士達が」
必ずという返事だった。
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