異能バトルは日常系のなかで 真伝《the origin》
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第一部
第三章 異能訓練
3-4 寿来vs一
戦いが起きる直前の、緊張を伴った静寂が二人の間にあった。
新しい異能に目覚めた時、その異能者は自分の異能の概要が分かる。
(終止符を打つ者か……)
単純に見れば炎を操る異能ってとこだろう。
一は経験から炎使いにはいかに接近戦に持ち込めるかが勝負だと知っていた。
遠距離からの炎を潜り抜ければ相手は自滅の危険から大技は出しにくく御しやすくなる。
(が、どうにもただの炎に思えない)
黒く揺蕩う焔を見て一は敵の能力を測りかねていた。
「……まあ、推測は大事だが、やり合えば分かる話か」
「行くぜ、寿来。第二ラウンドだ」
「お願いします」
結果、一はセオリー通り自身のスタイルでもある接近戦に持ち込むべく疾走した。
予想通り、炎が一目掛けて放たれる。
しかし炎は重力を駆使した動きに翻弄される。
(炎に重力を掛けるなり自分を加速させるなりすれば思ったほどじゃないな)
そして手の届く距離まで近づき無力化を図る。
(終わりか?)
そこで、黒焔が寿来の右腕を覆い出した。
(?)
そして黒焔は巨大な腕を型取り、次の瞬間に殴りつけてきた。
「なっ⁉︎」
想定外の動きだったが即座に背後に重力を掛けることでかすり傷で済ませられた。
少し距離を取る。
人ひとりは握れる巨大な掌にそれに見合う屈強な力。まともにくらえば四、五メートルは吹っ飛ぶだろう。
それに看過できない事が頭に浮かんだ。
「……なぜ炎の熱を使わない?」
近づく前から炎の熱をほとんど感じなくなっていた。ましてやさっきは掠っただけとはいえ触れた訳で、熱を使っていたらかすり傷ではなく焼け爛れさせるくらいは出来たはず。
すると寿来は少し困った顔で答えた。
「一さんを傷つけたくないという訳じゃないです。ただ、おれは相手を傷つけて殺すためじゃなく勝ち残るためにやってるので」
相手を不必要に傷つけたくないから、という理屈は分かる。
だがしかし、
「気に入らねえな」
一は納得しなかった。
最強を自負する自分に対し手を抜いて相手をするという姿勢はどうしても癪だった。
それが一が認めている人物であれば尚更だ。
そして再び疾走した。
されど今度は手心を加えた先程とはまるで速度が違う。
寿来も両腕に黒焔を纏わせ応戦する。
巨大な腕を掻い潜ること数回、一は異変を感じていた。
(なぜ重力下でこれほど動ける?)
近づいた時から一は寿来に数回重力を掛けている。
この異能は同時に複数の重力を発生させることは出来ないため、この場合回避に使うか相手の動きの制限に使うかなのだが、先程から重力を掛けても寿来はあまり変わらない動きをしていた。
そうなると必然、リーチとパワーで追い詰められる。
寿来の左腕をギリギリで避ける。
しかし無理な体勢からの跳躍が次の瞬間の致命的な隙を生じさせる。
「うおおおおお‼︎」
(避けきれないっ!)
「くっ!」
そして寿来の右の拳が唸りを上げて一にぶち当たった。
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厨二の異能が変わってからも私はアジトの小窓から二人の修行を面白半分で見ていた。
暇つぶしにはちょうどいー。
「うそ! 厨二やるじゃん!」
ボスに接近された瞬間に黒い腕が出てきてボスを退けた。
まぐれとはいえあのボスに一発かますなんてなかなか出来る事じゃない。
そこで偶然、アジトに仲間の戸木柊吾が入ってきた。
「おす。……なんかやってんのか?」
「ちょっと柊吾見てみて! 今ボスとボスの後輩が戦ってんだけど」
「名前呼びやめろや。……後輩っていうーと半年バトルに参加してなかった奴らだったか?」
「そ。その中の一人と訓練してんだけど……ボスを引かせたのよ」
「……へえー、やるな」
柊吾は小窓から眺める。
なぜかいい笑顔になり
「あの野郎は素早さだけは一流だかんな。で、どういう異能だ?」
私は数瞬言葉につまり、
「……分かんない」
とだけ言った。
「は?」
「ボスが言うには私の異能だと、ステージⅡの異能はまだ見抜けないっぽい」
「……つまりあのガキがステージⅡってことか?」
柊吾の顔つきが変わる。
改めて柊吾は窓の向こうを見た。
「ステージⅠの異能は熱くない炎を出すっていう訳わかんない異能だったんだけど……」
「……」
そして数秒後中断していたバトルが再開した。
「……なあ、これって訓練なんだよな?」
「うん」
「あの野郎、結構まじじゃねーか?」
確かにボスの動きは先程よりも格段に速くなっていた。
しかし跳躍の後の僅かな隙に今度はモロに厨二の拳が入った。
ボスの体が吹っ飛び転がる。
「……え? まじで?」
「おいおい、やばくねーか?」
イスから立ち上がって窓の向こうを見つめる。
幸い受け身は取れているが、形勢はかなり不利に見える。
「あの野郎が吹っ飛ぶところなんて初めて見たぞ」
「あたしも」
とそこで芥川も覗いている事に気がついた。
こいつはここのメンバーで、異能で空間を作ることも出来る。
この訓練場を作ったのも彼なのだがあたし以上に関心が無かったのか、ゲームに没頭していた。けど、他人に興味がないこいつさえいつのまにか事態の行く末を見ていた。
「……」
自分達のボスが敗れるかもしれない。
先程まであったどこかおちゃらけた空気は今はもう無かった。
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思った以上のパワーだった。
後方に重力を掛け軽減してなお吹っ飛ばされる。
体勢を立て直し距離を取ろうと動く間にも畳み掛けようと寿来が接近してくる。
状況は悪いがしかし、見抜いたこともある。
(重力を掛けても動きが変わらない。それはつまり……)
見立てを確認すべく、向かってくる寿来に対し近付きにくい様に重力を進行方向と逆に掛ける。
しかし寿来が前で纏った腕を交差して以降、スピードは衰えなかった。
(おれの重力を無効化している……)
恐らくは黒い焰に触れた部分の異能を無効化もしくは著しく阻害している。
(どうする……?)
自分にのみ重力を掛け回避に専念し、迫る豪腕を捌くも妙案は浮かばない。
それでも僅かに、ジリジリと、かすり傷が増え、追い詰められていく。
そして今度は巨大な腕がかすり体勢を崩した後の回避行動を読まれる。
しかし一には読まれていてもそれ以外に取れる選択肢が無かった。
(これはもらうな……)
「うおおおおお‼︎」
再び、黒い拳が炸裂した。
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「「異能の阻害⁉︎」」
「恐らくはね。そう仮定すれば今の攻防にも納得がいく」
芥川は自分の考察を口にした。
「詳しい効果の条件は分からないけど、それ以外に生身であの重力に対応出来る異能は考えにくい」
「異能を無効化する上に近接戦があんなに強いって反則じゃんか……」
こんな異能があるなんて……。
色んな異能を見てきたけどこれは間違いなく強者だ。
ボスの重力で効かないということはただのパワー自慢では相手にならない。
「……」
ふと横を見ると、柊吾が歯噛みしていた。
確かに芥川はまだしも、柊吾の異能は近接特化でどう戦えばいいのか検討がつかない。
「……手詰まりか」
芥川がそう言った瞬間、まるでその言葉を体現するかのように状況が動いた。
厨二の豪腕が再びボスに叩き込まれる。
とっさに両腕でガードしていたものの、やはりパワーが半端ではない。
先程よりも更に遠くへ吹っ飛んでいた。
今度は受け身を取れず、仰向けに倒れた。
「ボス‼︎」
これはマズイ……‼︎
厨二も消耗してるのか肩で息をしている。
が、ボスはそれ以上に削られてるはずだ。
訓練を中止にするよう呼びかけようとした時。
「ははっ」
悪寒と共に今まで感じたことの無い規模の重力が空間を支配した。
「はははははははははははははっ」
「くっ!」
ボスは立ち上がる。
今まで重力の影響を感じさせなかった寿来が初めて重力に膝を屈した。
「これほどとはよ。いや、そもそもステージⅡ相手にステージⅠじゃ勝てるはずもねえか」
そしていつもの不敵な笑いではなく、どこか追い詰められた危うい笑顔を浮かべた。
「なら……今ここで……」
重く、重く。
加速度的に高まる重力に
「そこまでだ。ファーストよ」
割って入ったのは黒い少女だった。
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