異能バトルは日常系のなかで 真伝《the origin》
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第一部
第三章 異能訓練
3-3 安藤寿来の異能
前書き
やはりハーメルンよりUA数の伸びがいい……!
ありがたいです。暁の方がジャンル的にハマってるんですかね?
それではどうぞ!
私、斎藤一十三が監督役を務める特訓。
前回までのあらすじ。
千冬ちゃんのロケットランチャーが鳩子ちゃんに直撃した。
「ちょっとストップストップ‼︎ 一旦集合して!」
鳩子ちゃん戦う前まではかっこよかったのに。
色々ツッコミ所があるためひとまず中止する。
私が初めて後輩の異能を見て思ったことは、なにこの子達の異能⁉︎
強すぎないっ⁉︎
強いとは聞いていたけどこれ程とは。
ぜひうちのチームに来て欲しい!
まあそのためにはチームを解散しなければならないので置いておこう。
千冬ちゃんがトコトコとかけ足で集合した。
まず聞かなきゃいけないのは
「あのロケットランチャー? は当たって大丈夫なの?」
爆発後の煙が数メートルは空に伸びていて、鳩子ちゃんが怪我してないか心配した。
「大丈夫。鳩子は本気でって言ったけど、けがしないように作った」
「そっか、よかった。本気だけど怪我させないようにするのは大事だからね」
そこで煙の中から鳩子ちゃんがこっちへ向かってきた。
確かに外傷は無さそうだけど、土煙でジャージが汚れきっていた。
そしてなにより髪が爆発していた。
「ふぅー、危なかったぁ」
「いやアウトだから! モロに食らって頭爆発してるからっ!」
「ええーーっ!」
千冬ちゃんが鏡を作り現状を見せる。
「そんな、この前美容院行ったばっかりなのに……」
「……」
気持ちは分かるけど今は無視する。
なんかもう疲れを感じる。
「でも、どうして異能で反撃しなかったの?」
「光か土で防げた」
千冬ちゃんも同じことを思っていたらしい。
事前に聞いた情報なら速度の速い光で撃ち落とすなり土の壁で防ぐなり出来そうだけど。
「えーと、銃向けられた時にどうすればいいかパニックになっちゃって」
「「……」」
「そっか〜、光か土を使うべきだったんだね〜」
困ったことになった……!
この子、私よりもバトルに向いてない……!
まあこの問題は後で考えるとしてもう一つ気になるのは
「千冬ちゃんはなんで兵装してるの?」
「……」
この質問は彼女を大いに悩ませたようだ。
腕を組んで頭を捻り悩むこと数秒。
「……ノリ?」
「チャラ男か!」
首を傾げて答える様が無駄にかわいい。
「ほんとは、一回着てみたかった」
「千冬ちゃん、兵隊さん好きだもんねー」
コクッとうなずく。
照れているのか頰が赤くなっていた。
え! ここで照れんの⁉︎
なんか分かんないけど無駄使いじゃない⁉︎
照れるさまもなんか無駄にかわいかった。
一旦準備整えてそろそろ再開しようという頃、イスに座っている千冬ちゃんは船を漕いでいた。
やる気はあるけどポンコツな鳩子ちゃん。
もうお疲れっぽい読めない千冬ちゃん。
果たして二人は無事戦えるようになるのか。
そしてなにより私がこの子達についていけるのか。そこも問題だった。
ガンバレわたし! 負けるなわたし!
三者三様の戦いの日々が始まった。
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連れてこられた場所は学校から少し離れた町の至って普通のマンションの一室。
入口まではありふれたもののだった。が、一さんが呪文の様な言葉を暗唱して入ると、部屋の中は壁や柱がむき出しのコンクリート空間が大きく広がっていた。
「……あんまり驚かねーな」
一さんは期待したリアクションが得られないためか仏頂面で言った。
「千冬ちゃんが色々作ってくれてるんで」
「あー。あの万能っ子の異能かー。いいよなー」
「この前はテニスコート作ってくれて、みんなで異能テニスやったんですよ」
「なにそれ、めっちゃ楽しそうじゃん」
ここだけの話なんだけどさ、と一さんは近づいてきて囁くように、
「うちの芥川とそっちの万能っ子交換しねー?」
「イヤですよ‼︎ 千冬ちゃんは掛け替えのない仲間だ!」
思い出したようにかっこいい台詞を言うおれ。
「じゃあ、この訓練でおれが勝ったら交換な?」
「悪魔か!」
「まあ冗談はさておき」
始めるか、と不敵な顔で彼はコートをたなびかせた。
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「もう終わりか? 寿来」
模擬戦闘が始まって三分。
一さんは傷一つない。
かたやおれは既にボロボロだった。
呼吸は荒く、地に伏して、吐くのを我慢するのがやっとの状態。
「まあ現実ってのはこんなもんだ」
一さんが僅かに落胆したような表情を浮かべたのが目に入った。
まずは現状を知るために手合わせをする事になった。
それについては同意見で納得していたが、誤りにおれは気付かなかった。
模擬戦闘はあまりの力の差に一方的な暴力にしかならなかった。
当初抱いていた、一さんが重力に関する異能を持っているだろうという予想は当たっていた。
しかし予想と実際は別物。
物理を無視した加速や跳躍といった読めない動きに加え、こちらの動きを崩すように重力を掛けられる。
手が届くことは無かった。
おれの異能は使い所がないため、反撃の希望のありそうな近接戦にしてもらった上にこの無様。
唯一可能性のありそうなカウンター狙いも読まれ、なす術なく倒れる。
痛み以上に屈辱と自分の不甲斐なさがただただ腹立たしかった。
これではみんなを守るどころか……
「ただの役立たずじゃねえか」
拳が壊れるくらいの力でアスファルトを殴った。
それを見て一さんは
「まず根本的な話から始めるが、そもそも異能ってのはなんなんだろうな?」
「灯代から聞いたんだけどよ。お前の異能、暴走したんだってな?」
「……」
知らず歯を噛み締める。
「自分の炎をコントロール出来なくて腕が燃えてあわや自滅する直前、女の子に腕切らせて助けてもらって難を逃れた。何に使えるか分からない上に勝手に自滅しちまう出来損ないの異能。違うか?」
「……」
おれは何も反論出来なかった。
「率直に聞くけどよ、なんでだと思う?」
「それは……」
分からなかった。異能を手にしてからずっと抱いていた疑問だった。
「異能を使用して日が浅いから? 実践で使うだけの覚悟が足りない? それもあるかもしれねえ。けど違う。現にお前の仲間たちは使い方が拙くても使い道が分からないなんてバカなことにはなってないだろう」
異能は自己の深層心理の欲求やコンプレックスなどに関する能力が発現する。
そして、お前の異能が暴走するのはお前が異能を危険過ぎると捉えてることに他ならない。
「‼︎」
「だが捉え方なんて時間や経験と共に変わっていくもんだ。包丁は凶器にもなるが、暖かい家庭料理を作るのに必要なもんでもある」
驚きと共に自然と右手に目が行く。
「お前にとって異能とはなにか? なんのために使う?」
おれにとって異能とは?
なんのために使うか?
「来いよ、ギルティア・シン・呪雷」
お前の異能(ねがい)を見せてくれ。
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「ヘッドハンティング。あいつを見てみろ」
二人の戦いにまるで興味が無いので、隣の部屋のアジト(この部屋もまたコンクリート空間と同じく柳という仲間が作った)でSNS警備をしていた私に声がかかった。
私は窓越しに返事をする。
「いや見ろっつったってあいつの能力ショボいの分かってんじゃん」
と言いながらもボスである一の指示に従うと
「なにあれ……」
厨二を見ると火柱の様な巨大な黒い焔が手から燃え盛っていた。
十メートル以上離れた距離にいるのに熱さを感じる。
見慣れない黒い炎からは幻想的な美しさを感じた。
「あいつの能力は手から湯たんぽ程度の熱さと大きさの炎を出すはずなのに……!」
「恐らくだが、あいつはもうステージⅡに上がっている。闘わずしてな」
「ステージⅡ⁉︎ あいつが⁉︎」
異能にはまだまだ謎が多い。
ステージⅡというのは勝ち残っているプレイヤーの中でも少数しか到達していないとされ、元々の異能の性能が大幅に向上した状態。言わば異能の進化だ。
その領域にあの厨二が?
「それより解析だ、どうなってる?」
驚きを隠せなかったがすぐに解析を始める。
そして更なる驚愕を覚えた。
「……ホントだ。ステージⅡってなってる……!」
解析を続ける。
「異能の詳細は分からない。けど、異能の名前だけ変わってる」
「その名は?」
「黒焔 - 終止符を打つ者」
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「おれにとって異能はかっけー。それだけでよかった。それ以上を求めてはいけない。でも暴走して、敵と戦って、異能の恐ろしさを知った。強い力だからこそ使い道は間違っちゃいけない」
決意を言葉に。
「おれは異能で仲間を守りたい、そして楽しかった日々に還るんだ」
他でもないおれの異能なら、それが出来るはず。
彼は自分の言葉で望みを口にした。
「よろしくお願いします、一さん」
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「……ハハッ」
瞬間、背筋がゾッとする。
「ハハハハハハハハハハハハハ」
絶対の信頼を置いていたあたしの異能の異常事態もあるがそれ以上に不安を覚えた。
この男が声を上げて笑うというのは今まであまりなく、いつも碌な事にならない。
「そうか。そうだよな。そうこなくちゃいけねえ。さすがだぜ寿来。ここで変われなければそれまでと思ってたが」
そう言った直後ボスの目が変わった。
「こうなると、おれもちと本腰入れねえとだな」
「手加減出来ませんよ? 一さん」
「おもしれえ、来いよ寿来」
そして「鬼の居ぬ間に鬼ごっこ」で作られた空間の中で両者本気の戦闘訓練が始まった。
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日がもうすぐ沈もうといった頃、泉北高校の野球部部室では三人の男が集まっていた。
「ずいぶんと時間かかっちまったが、まあまあの頭数が揃いそうだ」
ひとりは奥の席で酒を飲み。
「ええ、これでようやくあの女にリベンジできる」
ひとりは煙草を吸い。
「……」
ひとりは顔色を伺っていた。
「日程は十日だ。当日は先にフォクシーに行かせウチで迎える。準備しといてくれ」
「分かりました」
「木村もな」
「わ、分かりました」
日は沈みきり、夜が深まっていた。
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