夢幻水滸伝
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第百六話 鉄砲という名の魚その一
第百六話 鉄砲という名の魚
アレンカールは自分達の宿で夕食を前にしてだった、こんなことを言った。
「これはいいおもてなしだけれど」
「この鍋はやな」
「そうなのよね」
インペルに応えて言うのだった、その鍋を見ながら。
「最初はびっくりしたわ」
「河豚はな」
「毒があるのよ」
アレンカールが言うのはこのことだった。
「それがね」
「心配だな」
「しかも猛毒よ」
河豚一匹の毒で二十人以上殺せると言われている、ただし河豚の種類や個体に関係しているので一概には言えない。
「煮えも焼いても毒の効果が落ちない」
「蛇や蠍の毒はなくなるけどな」
それでもとだ、アレルフォも述べた。
「蛋白質やさかい」
「それがね」
「河豚の毒は違うから」
「それでも食べるのよ」
「日本では」
「あたい最初その話を聞いてびっくりしたわよ」
ブラジルにいた時にだ、彼にとってはそんな話は信じられないことだった。
「日本のそのお話を聞いてね」
「それでも食うか」
「そうなるのは当然やな」
インペルもアレルフォも同意だった。
「それは僕も一緒や」
「私もや」
「そうでしょ、中国でも昔食べていて」
唐代の詩にも詠われている、そして蘇東坡も食べていて詩に残している。
「韓国でもそうらしいけれど」
「それでもな」
「何で毒あるのに食べるか」
「それがな」
「わからへんかってんな」
「ええ、それがね」
アレンカールは鍋を見つつあらためて言った。
「この味ならね」
「わかるな」
「ほんまにな」
「ええ、あたいこっちの世界に来てね」
そうしてというのだ。
「はじめて食べたけれどね、お鍋もお刺身も」
「あと唐揚げとかな」
「白子も食べたな」
「この平城京でね、まあこっちに来るのは冷凍で」
術で凍らせたものだ、この世界の冷凍技術はそうしたものであるのだ。まだ冷蔵庫の様なものはあっても氷室に近い。
「下関の方が本場ね」
「河豚はそうやな」
インファンテが応えた。
「下関や」
「そうよね」
「あと博多と大坂や」
「大坂はすぐそこね」
「それで奈良はな」
つまり平城京はというと。
「河豚は本場やない」
「そうよね」
「けれど自分等は日本に来てな」
「その夜に河豚をご馳走になって」
この宿でだ、彼等は河豚鍋や河豚の刺身を食べたのだ。これもまた日本のもてなしの一つであったのだ。
「美味しいって思ってね」
「それからやな」
「河豚はいいと思ってるわ」
「確かに」
ダリーオもその通りだとだ、アレンカールに応えた。
「この味ならです」
「毒があってもね」
「食べたいと思いますね」
「ええ、まあこっちの世界じゃ生き返られるしね」
「毒にあたっても」
そして死んでもだ。
「だからその分は楽ですね」
「死ぬのは痛いでしょうけれどね」
「そうですね、ですが僕達が起きた時の世界では」
「生き返られないから」
それが彼等が起きた世界の特徴だ、つまり現実の世界の。
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