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三匹の馬

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第一章

                三匹の馬
 孫臏はかつて友人であった龐涓が魏に仕官したのを受けて自身も魏に赴いたがその際を妬み自身の地位が脅かされると危惧したその友人に陥れられて無実の罪により足を切られ額に入れ墨を入れられるという刑罰を受けた。
 だがそのことを知った彼の祖国である斉の者達に救われてそうして斎に逃れ自身を陥れた龐涓への復讐の時を待つことにした。
 彼は斉に入ってすぐに斉の中で名将として名高い田忌の食客となった、この時彼は斉の王や王族そして貴族達と馬を三組ずつ出して競わせ勝ったならその分だけ賭けた金を手に入れられる遊びに熱を入れていた。
 それで田忌はある日彼の屋敷で大柄な身体の上にある逞しい髭を生やした雄々しい顔を曇らせてぼやいていた。
「最近どうもだ」
「勝てないですか」
「馬の競争に」
「どうにもな」
 こう言ってぼやくのだった、
「近頃負けが込んでいる、わしの馬はいい馬が揃っているというのに」
「はい、将軍の馬は名馬が揃っています」
「伊達に武門の方ではありません」
「馬も揃っています」
「武具だけでなく」
「それだというのにだ」
 田忌は周りに曇った顔のまま言うばかりだった。
「最近負けが込んでいる」
「いい馬が揃っていても」
「それでもですね」
「将軍はどうも」
「近頃は」
「そうだ、どうしたものか」
 こう言ってぼやくばかりだった、だが。
 その話を聞いた孫臏はこう田忌に話した。
「将軍、宜しいでしょうか」
「どうしたのだ」
「はい、馬の勝負のことですが」
 その話をするのだった、足が切られていて車の上に座ってそれを曳かせての不自由な行き来であるが顔立ちも髭も整い目には深い知がある。
 その顔でだ、こう田忌に言うのだった。
「私に考えがあります」
「どういった考えだ」
「まず相手の馬のことはわかっていますね」
 勝負の相手のそれはというのだ。
「左様ですね」
「わかっている、それで相手の一番いい馬にはだ」
「こちらの一番いい馬をですか」
「あてている、二番目の馬にはだ」
「こちらも二番目ですね」
「それをぶつけている」
「では三番目の馬には」 
 今度は孫臏から言ってきた。
「こちらの三番目の馬をですね」
「あてているが」
「思う様に勝てない」
「そうなっている、勝ち負けが安定せぬ」
 どうにもとだ、田忌は孫臏にもこう話した。
「どうもな」
「お言葉ですがそれでは勝てません」
 孫臏は田忌に確かな声で答えた。
「満足には」
「そうなのか」
「それで三戦三勝は無理ですが」
 それでもとだ、孫臏は田忌にさらに話した。
「確実に二つ勝ち、よければ三戦全て勝てる」
「そうした勝負が出来るのか」
「そうなります」
「ではその考えを教えてもらおう」
「では」
 孫臏は頷いてだ、そのうえで田忌に己の考えを話した。その考えはというと。
「まず将軍の三番目の馬を相手の一番の馬にあてます」
「それでは負けるぞ」
「はい、勝てる見込みは薄いです」
「相手の馬によるがな」
「しかしです」
 孫臏は田忌にさらに話した。 
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