戦国異伝供書
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第五十三話 三度南へその七
「それがか」
「はい、当家の考えでして」
「今川殿のか」
「左様です」
こう答えるのだった。
「どうかこの度はです」
「和議を結んでか」
「そのうえで」
「兵を退けとか」
「左様です」
「ふむ、わしにしても」
晴信は内心考えつつ雪斎にこう返した。
「退きたいがな」
「それでもでありますか」
「長尾殿はどうか」
政虎、彼はというのだ。
「わしの首を欲しいと思っておらぬか」
「それは違うかと」
雪斎は稀が見る政虎を晴信にそのまま話した。
「長尾殿は武田殿を憎んではおられず」
「それでか」
「信濃がどうかであり」
思うことはというのだ。
「そうしたことはです」
「思われておらぬと」
「そしてです」
雪斎は晴信にさらに話した、周りには武田の諸将である二十四将が揃っている。そして幸村もいる。
「武田殿が退かれれば」
「信濃からか」
「いえ、それは武田殿にしても」
「うむ、出来ぬ」
それはとだ、晴信も答えた。
「それはな」
「左様ですな、ですが」
「この度はか」
「若し戦になればこの場は荒れ」
川中島はというのだ。
「多くの血が流れます」
「だからか」
「ここは民達のことを思い」
そうしてというのだ。
「そして兵達のことも」
「退いてもらいたいか」
「この度は益のある戦でありましょうか」
ここで雪斎は鋭い目になった、そのうえでの言葉だった。
「そもそも」
「争ってか」
「左様です、ここで決着がつくか」
晴信と政虎のそれはというのだ。
「そうでもないですな」
「そのこともあってか」
「若し戦になってもこの川中島が荒れ多くの兵の血が流れる」
「そうしたものになるからか」
「拙僧はそう思いますので」
それ故にというのだ。
「この度はです」
「退いてもらいたいか」
「左様です、長尾殿のところにも参ります」
政虎のところにもというのだ。
「そのうえで」
「和議を結んでか」
「兵を退いて頂きたいです」
「わしは越後に攻め入るつもりはない」
これは事実だ、晴信は信濃から美濃をと考えている、しかしその北の越後になると全く考えていないのだ。
それでだ、雪斎にもこう述べたのだ。
「何一つとしてな」
「そのことを長尾殿にもお話しますので」
「ここはか」
「我等がお館様のお考えに添って頂けるでしょうか」
「ではな」
晴信も頷いてだ、そしてだった。
雪斎は武田家との話を整えると次は上杉家の軍勢に赴いた、そうしてそのうえで政虎にも話した。だが。
政虎は晴信異常に雪斎に強い声で言ったのだった。
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