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一人侍

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第二章

「それでだ」
「承知しています、では」
「頼むぞ」
「はい」
 保昌は応えてだった、そうしてだった。
 夜の都を巡っていった、その夜の都で。
 今大柄で険しい顔をしており闇に紛れる黒く動きやすい衣を着た男が陰に潜んでいた。そうしてだった。
 隠れている物陰から笛を吹いている男を見ていた、男は横笛を吹きつつそのうえで都の道を一人歩いている。
 その笛の男にだ、ならず者はすすすと物陰から物陰を伝って近寄り。
 さっと後ろから襲い掛かった、刀の峰で急所を狙っていた。だがならず者の刀が後ろから迫ったその時にだった。
 笛の男は姿を消した、ならず者の刀が空を切った瞬間いだった。ならず者は上から頭をしこたま打たれた。
 男は刀を上に跳んで避けてそれから笛でならず者を叩いたのだ。一瞬であったがそれで全てが決まった。
 そのうえでだ、男は蹲るならず者に言った。
「久しいな」
「その声兄者か」
「そうだ、今はその名を使っているか」
「わしは藤原の名を捨てた」
 ならず者は顔を上げて男に答えた、その顔は実に忌々し気なものだった。
「今のわしの名はだ」
「袴垂保輔か」
「そうだ、その名を名乗っておる」
「愚かな。何故名を捨てるか」
「知れたこと、今のわしはこの通りの者だからだ」
 笛の男を睨みつけて言うのだった。
「盗人だからな」
「盗人に相応しい名を名乗るか」
「そうだ、兄者とは違う」
「わしをまだ兄と呼ぶか」
 男の顔が月灯りに照らされていた、見れば保昌だった。
 保昌は自分を兄と呼ぶ弟のその言葉を受けてこう返した。
「それは変わらぬか」
「それがどうかしたか」
「ならば当家の誇りは失っておらぬか」
「名を捨ててもというのか」
「そう見たがどうだ」
「わしは確かに盗人になった」
 このことからだ、保輔は保昌に答えた。
「そして名を捨てた」
「今そう言ったな」
「しかしだ」
「それでもか」
「わしは人は殺めぬわ」
「それはせぬことは聞いておる」
「盗人でもわしは外道はせぬわ」
 あくまでと言うのだった。
「それがわしの考えじゃ」
「だからわしもか」
「おうよ、兄者はどう思うか知らぬが」
 それでもというのだ。
「兄者は兄者じゃ」
「そのことは変わらぬか」
「そのことを否定してどうする」
 何になるかというのだ。
「そもそもな」
「だからそれはせぬか」
「そしてじゃ」
 保輔は保昌にさらに言った。 
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