一人侍
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第一章
一人侍
この時都では一つの騒ぎが起こっていた。夜な夜な一人の盗人が出て人々からものを盗んでいたのだ。
その盗人についてだ、太政大臣である藤原道長も憂いのある顔で言っていた。
「あの袴垂保輔という者だが」
「はい、とかくです」
「夜な夜な都を暴れ回ってです」
「道行く人を襲ったり貴人の屋敷に忍び込んでです」
「そうしてものを盗んでいます」
「人は殺めませんが実に腕が立ち」
「動きは風の如きです」
宮廷の官吏達も口々に話した。
「まるで鬼の如くです」
「まことに鬼ではという者すらいます」
「このまま放ってはおけませぬ」
「どうしても」
「そうじゃ、それでじゃ」
道長はそのふくよかな顔を顰めさせそうして話した。
「この度は一人の者に任せようと思う」
「と、いいますと」
「その者は誰でしょうか」
「そういった者ですか」
「うむ、入るのじゃ」
道長がこう言うとだった、整い毅然とした顔立ちの背の高い者が着た。着ている者は官服であるが動きは宮廷の多くの者とは違っていた。
速くそして鋭い、それは藤原保昌だった。源頼光と彼に仕える四天王と並び称される侍であった。
その保昌が道長に言われて場に入ってきてた、座って道長に一礼するとだ。道長は宮廷の者達にあらためて話した。
「この度はな」
「藤原殿にですか」
「この方にお任せしますか」
「あの盗人のことを」
「うむ、随分と強いが」
保輔はというのだ。
「しかしな」
「はい、藤原殿ならです」
「何の憂いもありませぬ」
「必ずです」
「あの盗人を退治されますな」
「そうしてくれるわ」
こう言ってだ、道長はその保輔という盗人のことを保昌に任せることにした。保昌はすぐにだった。
夜に都を歩いて盗人を探し出した、だがその探し方が実に面白いもので道長は昼に参内した保昌に微笑んで話した。
「噂は聞いている」
「私の盗人の探し方について」
「流石と言うべきか」
「ああすればです」
「あちらの方からか」
「来ると思い」
それでというのだ。
「そうしています」
「成程な」
「それでなのですが」
保昌は道長に述べた。
「おそらくそろそろです」
「来るか」
「はい、そして」
鋭い表情になってだ、保昌は道長にこうも言った。
「その盗人は」
「まさかと思うがな」
「大臣もそう思われますか」
「うむ、しかしな」
「それでもですね」
「これ以上の狼藉は許せぬ」
それでというのだ。
「そなたにあえて頼むのだ」
「左様ですね」
「今源殿と四天王には別のことをしてもらっている」
保昌と並び称されている猛者である彼等はというのだ。
「だからだ」
「私にですね」
「今都にいるのはそなただけだしな」
このこともあってというのだ。
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