飛び立った天女

「どうしても」
「やっぱりそやな」
「だが」
　苦しみ、それに満ちた顔での言葉だった。
「妻の本当の気持ちはずっとわかっていた」
「天界に帰りたいことがやな」
「そうだった」
　こう言うのだった。
「ずっとな」
「それでもやったんやな」
「妻を何とか引き留めてな」
「ここまでやってきたんやな」
「そうだった、だが」
　それがというのだ。
「妻は死ぬのだな」
「このままやとな」
　ベッシーはこの事実を指摘した。
「そうなってことや」
「彼が言っているのだな」
「その通りや」
「彼は嘘を言わない」
　決してとだ、村長は絶対の信頼を以て言い切った。
「何があろうともな」
「信頼しているのね」
「友人だったのだ、今は袂を分かってしまったが」
　何故そうなってしまったのかは言わなかった、言うまでもなかった。
「貴方達の話を聞く限り彼はわしが知る彼だ」
「嘘を言わへん人やっていうんやな」
「そうだ、ならな」
「薬剤師さんの言うこと信じるんやな」
「心から」
　これが村長の返事だった。
「私はそうする」
「ほな」
「妻はこのままだと死ぬ」
　村長は険しい顔で述べた。
「わしはは妻を愛している、ここで寿命となり死ぬのなら」
「それならか」
「わしはいい」
　苦い、これ以上はないまでの顔での言葉だった。
「妻が生きるのなら」
「ほなやな」
「妻に伝えてくれ、天界に戻ってな」
　そうしてというのだ。
「幸せに暮らして欲しいと」
「そうしたら奥さんと別れて」
　そうしてとだ、ベッシーは村長に話した。
「もうな」
「妻と二度と会えないな」
「それでもええねんな」
「別れたくはない」
　村長は偽らざるその心情を述べた。
「何があろうとも、だが妻が死ぬのなら」
「二度と会えなくてもやな」
「いい、故郷で幸せに暮らしてくれと伝えてくれ」
　ここまで言うとだ、村長は。
　ベッシーとニャメに妻の部屋の場所を伝えてから席を立った、そのうえで。