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ノーゲーム・ノーライフ・ディファレンシア

作者:シグ@グシ
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第三話 不戦勝



「なあ、白。次、誰を捕まえる?」

空は、そう端的に問い掛けた。
その手には黒いポーンが握られている​────それは即ち、空達がステフをボロクソに負かし終えた、完膚無きまでの完全勝利を得た事を意味していた。
人類最強のゲーマーである『  』と、それに匹敵するゲーマーであるグシがタッグを組んだのだ────ステフが相手では、あまりにも当然すぎる結果だった。
だが、次の相手からはそうはいかない。如何に知略策略に優れていようが、他種族を相手にしては油断など許されない。
当然、()()()()()()()()()()()事も必要になってくる。例えば────

「……ジブ、リール?」

白が、口を開いた。
────そう、ジブリールは空の所有物だ。彼女の性格上、ゲームせずして空達にコマを渡すことさえ考えられる────そうでなくとも、ゲームを始める際に『  』に対して不利な条件は却下することが出来る。ジブリールは、現時点で勝つ難易度が高くない相手と言って差し支えない。
だが、重要なのは()()()()()()。重要なのは、ジブリールとのゲームに勝ったその後である。
唯一神のコマを失い、『  』への()()()()()()()()、ジブリールは普段通りのポジションに────つまり()()()()()。つまりそれ以降のゲームを行う際の戦力として数えられるようになるのだ。
それを考慮すれば、ゲームを仕掛ける順番は重要な要素である。

「────いいんじゃないか?最初の相手は所有物(ジブリール)。味も素っ気もない話だが、早いが話()()()()()()()()()()()()()()()()()()だからな」

そう、グシが白の意思を代弁する。
だが、空はその発言に気乗りしない顔を見せ、げんなりと口を開く。

「いや、まあそりゃそうなんだが……」

歯切れの悪い空の言葉に、グシは首を傾げる。
だが、それも一瞬の事────空の目が自分に刻印された術式を捉えている事に気付き、すぐさま空の考える所を理解した。

「あぁ、原因は俺っぽいな……」

────精霊誘導の刻印術式などという、()()()()()()()()異常知識欲者(ジブリール)()()()()()()()()()。どんな展開になるか────想像するに難くない。
無論、ジブリールが暴走したところでゲームには欠片の影響もない。しかし、知識欲を発露したジブリールの相手など────御免被りたいと思うのは当然だろう。
だからこそ空はジブリールとのゲームを拒みたかったが、肝心のゲームを行うのにはちっとも問題が無い為に強く拒絶する事も叶わず歯切れの悪い言葉しか出なかったという訳だ。

「まあ、確かに俺もあのジブリールを相手するのは面倒だからな……どうする。俺は退出した方がいいか?」

グシはそう言って空の憂鬱を排除しようとするが、空はその言葉に首を振った。

「いや、お前は『  』にすら匹敵する実力を持った味方だからな────お前を退出させたら、間違いなくゲームの難易度が上がる。ゲームに関係無い事の為に、ゲームを蔑ろにしちゃ本末転倒だろ」
「────違いないな」
「仕方がねぇ。覚悟を決めるぞ。────『ジブリール』」

空は、意を決してその名を呼んだ。

「こちらに」

瞬時に転移するジブリール。恭しく空に畏まるその態度は────しかしグシを前にすぐさま砕け散る。

「な、ななな何でございますかこの刻印術式はッ!?私の知るどの刻印術式とも違ってございます────効果は、作成者はッ!?」
「顔が近えッ!!あとよだれ垂らすな異世界の一張羅がッ!!」

ジブリールが、歓喜を露わにする。ついでに、ヨダレも露わにする。
グシの悲鳴が、エルキア城に響いた。



「……ジブリール」
「……はい」

なんとも形容しがたい表情のグシと、正座させられるジブリール。明らかに説教の始まる雰囲気に、だが空も白も止める気は起きず、グシの言葉を待った。
果たしてグシの口から発せられた言葉は────

「お前はもう少し理性を鍛えろこの知識欲の塊がァァァ!!」

────言葉が無かった。こればっかりは、『  』ですら庇い立てのしようが無かった。

「ま、怒りっぱなしじゃ話も進まないな。お望みの効果と作成者、教えよう」
「本当でございますかッ!?」

怒鳴って3秒経たない内に砕けたジブリールの理性に、もはや叱る気すら失せたらしく、グシは刻印術式に精霊を走らせた。

「……見た方が早い。『誘導術式(インダクト)』起動」

そしてグシは見えていない精霊を誘導し、精霊で手を形作る。それをジブリールの目の前に持っていき、人差し指を立てて見せた。

「なるほど、精霊使役……いや誘導でしょうか?確かに貴方様が使うなら体内精霊の節約になりそうですが、基本的に魔法を使う種族にはあまり意味がないように感じられます────はて?」

グシの見せた魔法を早々に理解するが、その本質にまでは至らないジブリール。
その様子にグシはニヤリと笑い、黒いポーンを突き付けて言う。

「知りたいか?なら俺とゲームをしようぜ────お前は黒いポーンを賭けな」

不遜に告げるグシに、だがジブリールもまた冷静に応じる。

「そちらが賭けるのは、術式作成者の情報でございますか?それだけではチップ不足にございます────分からない訳ではないでしょう」

そう、刃の如き眼光で応じるが────

「当然だ────俺はそんなみみっちいチップの載せ方はしねぇよ。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()
「ふぇっ!?そそそそんな大サービス、よ、よろしいのですかッ!?」

────その気迫は、グシの言葉で木端微塵にされる。そして、だらしない笑顔で、

「で、では早くゲームを始めましょうさあ【盟約に誓(アッシェ)────」
「待ちな」

盟約に誓おうとするジブリールに、だがグシがそれを止め────
駄目押しにもう一本、とばかりに更に畳み掛ける。

「まだ俺のレイズの権利が済んでねえぜ」
「レ、レレレレレレレレイズでございますかッ!?」

────やりたいことが分かった、と空と白はグシに半眼を向け。
しかしジブリールは元ネタを知りようが無い故に、問うた。

「こ、これ以上何を賭けると言うのですかッ!?」

ジブリールは知らず知らずのうちに嵌められていた。グシは整った舞台に満を持して、トドメの一言(いちげき)を放つ────

「刻印術式に限定しない、俺の全ての魔法の知識も賭けよう。さあ────ゲームをはじめよう」

ダンッ、と。魔法まで使ったのか、テーブルを出現させ、白いコインを叩きつけた。
どこか既視感のある威圧感に、ジブリールは葛藤する。

────相手はグシ。勝てるかどうか怪しい────否、勝つ見込みは薄い敗色濃厚なゲームになる。
だが、絶対に知識は欲しい。あまりにも大きすぎるチップ、ここで逃せば二度と手に入らないレアな知識も多分に含まれているだろう。
そんな知識をみすみす逃したくはない。どうにか、どうにかして知識を────!!
その思考の無限ループがジブリールの精神力を奪う中。ついに見出された確実に知識を手に入れる方法を、彼女は口にする。

「で、でしたら、黒いポーンと交換でどうでしょう、うぇへへ〜〜」

同時、脳が限界に達したのか。
ジブリールは、コマをポロリと落とし、立ったまま気絶した。

「そんじゃま、コマは貰ってくぞ────どうだ『  』、不戦勝したぜ!?」

────先程までの威圧感はどこへやら。
子供のようにはしゃぐグシに、空は半眼で漏らした。

「……そうだな、じゃあお前の手札はブタか?」

暗に、「ゲームする気があったのか」────()()()()()()()()()()()()()()()()()と問う空に。

「ブタで勝負には出られないよな────ゲームは用意してたよ」

そう、Aのファイブカードを見せて、グシは意地悪く笑った。


 
 

 
後書き
ネタに走るべきでない事がよくわかりました 
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