戦国異伝供書
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第四十七話 義に従いその一
第四十七話 義に従い
この時景虎は春日山城において怒りの顔を見せていた、そうしてそのうえで居並ぶ家臣達に対して言っていた。
「甲斐の武田殿たるやです」
「あの方は、ですか」
「まさに奸臣です」
こう直江に言った。
「幕府の考えに従わぬ」
「甲斐の守護でありながらですね」
「隣の信濃を奪おうとする」
そうしたことを進めている、というのだ。
「まさに奸臣です、仮にもあの御仁は甲斐の守護ですね」
「はい」
その通りだとだ、直江は景虎に答えた。
「幕府から命じられる以前からあの地におられる」
「甲斐源氏の嫡流として」
「まさに名家です」
「それでありながらです」
「隣の信濃を攻めることは」
「許されないこと、これはです」
景虎は怒ったまま言った。
「捨て置けぬのでわたくしがです」
「武田殿にですか」
「咎める文を送りたいといいますか」
「軍勢をですね」
「出して成敗すらです」
「お考えですか」
「はい」
こう直江に話した。
「考えています」
「左様ですか」
「そしてです」
さらに言うのだった。
「ことを正したいところです」
「ですが殿」
ここで宇佐美が言ってきた。
「今は戦国の世」
「だからだというのですね」
「武田殿の行いもです」
「当然のことですか」
「下剋上の世であり力があるなら」
「他の国に攻め入ることもまたというのですね」
「あります、今川殿も」
この家もというのだ。
「隣国の三河をです」
「手に入れましたね」
「はい、守護の吉良殿を形だけにして」
それだけの立場にしてというのだ。
「そしてです」
「今や駿河、遠江、三河の主であられる」
「そうなられてもいますし」
「武田殿の行いもまた」
「正しいとされる世ですが」
「それが間違っているのです」
景虎は宇佐美に怒った顔のまま答えた。
「あえて申し上げますが」
「そのこと自体が」
「そうです」
まさにというのだ。
「私はこのことを申し上げます」
「左様ですか」
「武田殿は信濃の全てを我がものとせれるでしょうし」
「殿、そうなればです」
今度は本庄が言ってきた。
「我等にとってもです」
「危うきことですね」
「はい」
その通りだというのだ。
「ですから」
「尚更放っておけぬこと」
「そう思いまする」
こう言い切った。
「まさに」
「そうですか」
「はい」
まさにというのだ。
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