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戦国異伝供書

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第四十五話 影武者その七

「今は軽くじゃ」
「そうしてですな」
「祝おう、砥石城と葛葉城まで攻め落とし」
「そして信濃の北も」
「全て制してな」
 そのうえでというのだ。
「盛大に祝おうぞ」
「わかり申した、今の勝ちで油断せぬ」
 幸村は晴信に強い声で応えた。
「だからですな」
「そうじゃ、そして信濃の北も完全に手に入れたら」
「その時はですな」
「そうじゃ」
 まさにというのだ。
「今度は海津に城を築いてな」
「信濃の北を守るのですな」
「そこまで整えてな」
 そしてというのだ。
「万全とする」
「勝って安心せず」
「わしは戦に勝つことが目的ではない」
「勝って手に入れた場所を治める」
「それが目的であるからこそじゃ」
「勝って喜ばぬのですか」
「治めた民の笑顔を見て喜ぶ」
 晴信は実際にその笑顔を見て喜んだ。
「そうする」
「左様ですか、では」
「うむ、これよりな」
「ことを進めていきましょう」
「戦もな」
 こう言ってだ、彼は今は軽くだった。
 全軍に酒を出してこの度の戦の勝ちを祝わせた、その中で幸村は十勇士達と共に酒を飲んでいた。その中でだった。
 ふとだ、十勇士達にこう言うのだった。
「わしは日に日にお館様を知ってな」
「素晴らしい方と思われていますな」
「敬愛を感じておられますな」
「まさに」
「うむ、感じて止まぬ」
 こう言うのだった。
「日に日にな」
「左様ですな」
「我等から見てもわかります」
「殿はお館様への忠義が日増しに強まっておりまする」
「まさにご自身の主とです」
「そう思われていますな」
「あの様な方にお仕え出来てじゃ」
 それでというのだ。
「わしは果報者じゃ」
「そしてその殿と共にいてです」
「我等も果報者です」
「そこまでのお心の方にお仕え出来て」
「まことに果報者です」
「そうであるか」
 幸村も彼等の話を聞いて述べた、共に飲みながら。
「わしが主でか」
「全く以て」
「殿の様なお心の方と共にいられてです」
「まことに果報者です」
「そこまでの忠義の方と」
「しかしわしは禄にも位にも興味がなくじゃ」
 幸村は自分のことも話した。
「お主達に与えられるものも僅かであるが」
「いやいや、我等も同じです」
「碌にも位にも興味がありませぬ」
「殿と共にいられればいいのですから」
「殿の武士の道を共に歩んで」
「そうなのか、禄も位もいらぬか」
 幸村は十勇士達のその言葉を聞いて述べた。
「わしと同じだからか」
「殿と一緒にいたいのです」
「最初からそうしたものなぞ求めておりませぬ」
「求めているのは武士の道」
「正しき道を進むことです」
「そうか、ではこれからもじゃ」
 まさにとだ、幸村は言うのだった。 
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