夢幻水滸伝
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第九十六話 仁王像その十一
「誰も何も言わない」
「そこまで腐敗しているからこそ」
「タゴールもそう言うし私も否定しない」
「そうですか」
「日本の戦後の知性はどうにもならない」
そこまでレベルが低いというのだ。
「だから吉本隆明なぞ読んでもだ」
「その知識人の中のトップですね」
「腐敗した中のさらに腐敗したものだ」
それが吉本隆明とやらの知性だというのだ。
「読むだけ無駄だ、何のためにもならない」
「だから漫画の方がいいですか」
「ライトノベルやアニメでもいい」
「戦後日本の思想書やおかしな知識人の話を聞くよりも」
「遥かにいい」
ためになるというのだ。
「私は確信しているしだ」
「タゴールさんもですか」
「よくライトノベルや漫画は読んでいるとのことだ」
「そちらをですか」
「そして楽しくて得られるものが多いとな」
「言われていますか」
「全く以てその通りだと私も思う」
確信を以てだ、室生は言い切った。
「その様にな、だが終戦までいい」
「その時までは」
「その中に宗教もあり」
「この東大寺もですね」
「あるのだ」
「確かに観てますと」
「ああ、何かを感じるよな」
コープチッティはハウオファに応えた、大柄な者が共にいると随分目立っている。流石に仁王像程度大きくはないが。
「それだけでな」
「全くわ、神聖なものとな」
「畏怖ってやつをな」
「感じるわ」
「わしもさっきは自分の方が強いと言うたが」
それでもとだ、コープチッティは言った。
「その言葉はあらためるわ」
「拙者もですわ」
モレイも今は畏まった感じになっている、そのうえでの言葉だ。
「ほんまに」
「そやな、御仏の力を感じるわ」
「そうですな」
「そういえば自分宗教何や」
リサールはモレイにこのことを聞いた。
「一体」
「仏教、浄土宗ですけど」
「日本の仏教か」
「はい、実は」
「そういえいばパラオはな」
「元々日本の統治下にあったんで」
それでとだ、モレイはリサールに答えた。
「その影響で日本の仏教も入ってまして」
「それでか」
「日本の仏教が今も残ってて」
「自分の宗教はそれか」
「日本の統治の後アメリカが来てキリスト教が入りましたけど」
「日本のものは残ってか」
「それで拙者の家もです」
そしてモレイもというのだ。
「キリスト教やなくて」
「浄土宗か」
「そうですわ」
「そうか、おいらはカトリックやがな」
「フィピリンの主流の」
「テレサ先輩もや」
同じフィリピン人である彼女もというのだ。
「カトリックやしな」
「この世界でもですか」
「賭ける前は絶対に祈ってる」
「そうしてますか」
「そして勝ったら感謝する」
「負けたら」
「この世界では負け知らずや。それと起きた世界では金やものは捨てるもんやないと賭けん」
どうでもよくないものでないと、というのだ。金とはこの場合は遊ぶ金だ。
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