八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる
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第二百三十一話 現在進行形の美しさその十一
「周りから見るとな」
「何でもないものだね」
「ああ、ただな」
「ただ?」
「振られた話はな」
小谷君はこの話になると顔を曇らせた、そしてそのうえで僕に対してその顔でこんなことを話してくれた。
「すぐに伝わるからな」
「そういうものだよね」
「お前もわかるよな」
「うん、振られた人をからかったりね」
「そうする奴いるな」
「それ振られた方はね」
僕は自然と俯いた、そうした経験はないけれど知っている話だからだ。
「そのことを言われるとね」
「相当に傷付くな」
「そうだよね、そうなるから」
「だからだよ」
「言ったら駄目だね」
「俺がそんなこと言われたらな」
小谷君は今度は怒って言った。
「一生覚えてるからな」
「言った人に対してだね」
「忘れられるか」
絶対にという言葉だった。
「振られたことなんてな」
「言われたくないよね」
「俺だってそうだよ、そりゃ失恋とかな」
「誰にでもあるね」
「光源氏だって振られてるさ」
源氏物語の主人公、見事な貴公子でもだ。
「在原業平もな」
「あの人もだね」
「振られてな」
「そうだね、旅に出たね」
それが伊勢物語のはじまりだ、あの人が振られてからその傷心を癒す為に東国に向かったのが冒頭だ。
「それから」
「誰だって振られてな」
「傷付くね」
「その傷をまたえぐる様な真似はな」
「やられたら嫌だね」
「俺だってしないさ」
小谷君自身もというのだ。
「そんなことはな」
「君はそんなことはしないね」
「ああ、絶対にな」
強い言葉だった、今日の小谷君の言葉で一番。
「するものか」
「自分がやられて嫌だから」
「そんなことするか」
絶対にという言葉だった。
「俺は嫌な奴になりたくないからな」
「自分自身が」
「だからな」
それでというのだ。
「ならないさ」
「そうだよね、それがね」
「いいことだな」
「そう思うよ、人間ってね」
失恋をしてそれを囃されて苦しんだ人を思い出した、僕がこの学園で見た人だ。若しあの人にいつもいてくれている親友がいなかったらどうなっていたか。
「心に傷があるから」
「誰だってな」
「その傷を軽い気持ちでもね」
「えぐるとな」
「誰だって辛いから」
「それでだよ」
「小谷君もね」
「するか」
絶対にという返事だった。
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