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戦国異伝供書

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第四十三話 関東のことその十

「そしてそのやり方はな」
「軍勢と足並みを揃えて」
「川の向かい側で動いてじゃ」
「惑わしますな」
「それで敵を足止めしてもらう」
「わかりました、では必ずや」 
 幸村は明るい声のままで主に答えた。
「武田の軍勢の主力が川を渡ることを」
「果たす助けをしてくれるな」
「そうさせて頂きます」
 こう言ってだった、幸村は早速本陣を出た、そして十勇士達のところに行ってそのうえで晴信からの命を伝えた。
 そしてだ、こう言ったのだった。
「では今よりな」
「はい、川を渡りましょう」
「是非共」
「そしてそのうえで」
「すぐにですな」
「そうじゃ、川を渡ってじゃ」
 そのうえでと言うのだった。
「敵を惑わすぞ」
「わかり申した」
「では我等全員で敵を惑わしましょう」
「そしてお館様が率いる軍勢が川を渡る力となりましょう」
「是非共」
「その様にな、我等でな」
 まさにとだ、また言う幸村だった。
「ことを果たすぞ、してな」
「そしてですな」
「我等はですな」
「これよりですな」
「十一人で行きますか」
「この顔触れで」
「そうする、しかし一つ言っておくことがある」
 ここでだ、幸村は十勇士達に明るい笑みでこうも話した。
「我等は誓い合ったな」
「はい、生きるも死ぬも同じ」
「死ぬ時と場所は同じです」
「我等十一人全員です」
「冥土に行く時は同じです」
「そうじゃ、だからじゃ」
 それでと言うのだった。
「ここで死んではならぬぞ」
「わかっております」
「何があっても死にませぬ」
「我等が死ぬのは殿と同じ場所です」
「そして同じ時です」
「そうじゃ、だから頼むぞ」
 十勇士達にこのことを約束させた、そうしてだった。
 幸村は彼等を連れて秘かに川を渡った、だが村上家と小笠原家の軍勢は今はそのことを知らずだった。
 武田家が川を渡るより先に川の北岸に布陣した、それは川の北岸をしっかりと固めた実に堅固なものだった。
 その布陣を見てだ、小笠原長時は村上義清に言った。
「村上殿、いい陣であるが」
「それでもですな」
 村上は立派な口髭のある四角く日焼けのした男らしい顔で応えた。
「武田家は」
「左様、油断は出来ぬ」
「何をしてくるかわからぬ」
「そうじゃ、若しかしてな」
 まさにと言うのだった。
「既に川を渡る者がいるか無理にじゃ」
「この堅固な陣に対しても」
「無理にでもな」
「川を渡ろうとするか」
「わしは負けた」 
 それだけにというのだ。
「わかっておるつもりじゃ」
「この布陣を見ても強引に渡ろうと攻めて来るか」
「それかじゃ」
「既に渡っている軍勢がおる」
「そうやも知れぬ、だからな」
 それ故にというのだ。 
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