魔法が使える世界の刑務所で脱獄とか、防げる訳ないじゃん。
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第57話 大人しく自宅謹慎してりゃよかったよ畜生め
体中が痛い。
何で痛いのかは分からない。きっと、この頭可笑しいヤクザが何かして、痛覚を通常レベルに引き下げたのだろう。
……謹慎初日に橙条さん、三日目にヤクザに犯されてる私ってなんなの本当に。
「はぁ……これだけヤって、漸く意識無くすったぁ、どんだけの精神力だよ」
「ぁ……はぁ……っ、は……」
「ま、もう聴こえてねぇか」
橙条さんがつけた印が漸く消えてきたと思ったのに……
大人しく家に帰れば良かった。
それか、響か仁と一緒に帰るべきだった。
盛大にやらかした。
どれだけ怒られるか、分からないなぁ。
◇ ◇ ◇
「……ん、む……あれ、服……それに、家」
「やっと起きたのかよ……ったく、遅ぇ」
待って、何でまだ白髪ヤクザさんが目の前に居るんですか。
完全にここって私の家なんですけど。
取り敢えず頰を抓る。痛い。夢じゃない。
手を伸ばしてヤクザさんの頰に触れる。さわれる。温かい。夢じゃない。
「……なんでここに居るんですか」
「てめえを送り届けてやったんだろうが。感謝しろや」
「はぁ? 全ての元凶は赤信号に突っ込んでいったヤクザさんですよね。あの時見殺していればよかった」
「そりゃ選択を間違ったな。あと、“ヤクザさん”じゃなくて“真希様”」
「…………あー最悪ですなんでヤクザなんかと絡まなきゃ行けないんですかただでさえマフィアに行った帰りだったのに」
「全部聞こえてるぜ? “琴葉”ぁ」
なんなのこの人。
助けてあげたのに私の手の爪を剥いだり、体を真っ二つにしたり、抱き潰したり。
「……って、あれ。爪がある……」
「俺様が治してやった。なんてったって、てめぇが俺の研究の成果だ。そりゃ、大切にしねぇといけないからな」
「……意味分からない」
「分かんなくていいさ、人形」
今着ている、買った覚えのないセーターはもしかして、このヤクザが用意したモノ?
だとしたら最悪。
「……なんでヤクザが私に優しくする?」
「だから言っただろ。てめえが俺様の研究の成果だって」
「え……ってことは…………」
このヤクザが私の親的な存在……?
「ないないないないないない‼︎‼︎」
「うおっ……吃驚した」
「はぁ⁉︎ だって、ヤクザですよ⁉︎ 俺様俺様言ってる自己中心的な人間ですよ⁉︎ それが私の親⁉︎ ないないないないないない」
「親ぁ? 何妙なこと言ってやがる。てめえは、俺様の人形だろ」
「いやいやいやいやいや、今は私の主はレンさんであって、貴方じゃ」
「言ってなかったな。てめえの主である権限はもやし野郎から既に奪ってある。だから、今てめえが使ってる魔力はおれのモンだ」
……もう、死のうかな。
「本当に、今日の私は可笑しいんですよ。なんで湊さんに怒ったんでしょうか……なんでヤクザを助けたんでしょうか……あー生物をやめたい」
「何言ってんだ? 御前。そりゃ全部一昨日の事だが? つーか、煙草吸っても良いか?」
「そこもヒ◯マイの作者の推しと被ってるんですよ。加えて、髪の色も。被ってないのは目の色と服装と名前くらいじゃないですか死にやがれクソヤクザ。ヒ◯マイファンの方本当にすみません。まぁ良いですけど、私にも下さい」
「……今の台詞は聞かなかった事にしてやる。ほら」
流れる様な動作でシガーキス。もうなんなのこの白髪ヤクザ。
「顔真っ赤じゃねぇか。なんだ、そんなに気持ち良かったのか?」
「……もう考えるのはやめよう」
何時も吸わない煙草を吸って、けほけほと咽せる。お陰で、考える事を放棄する事に成功した。
そうだ、きっとこれは白昼夢を見ているんだ。
夢から醒めたら、なにもかも、元通り———
◇ ◇ ◇
———な訳ないですよね。
目の前に居る二人の男達に気付かれない様に、静かに、気配を消して、窓から部屋を出る。
もうやだ……目を覚ましたらマフィア首領とヤクザのボスが言い争いしてるとか、どんな地獄ですか……‼︎‼︎
「「待て」」
勿論気付かれる。
そして、速攻部屋に連れ戻されて、何処からか取り出したロープで、机の脚に括りつけられる。
死。
「……すいません、湊さん、ヤクザさん。私、もう……本当に、げんか……い……」
実は私、謹慎初日から何も食べていない。
で、今日は謹慎六日目。
精神的にも、肉体的にも、死ぬ。
◇ ◇ ◇
「———起きたか?」
なんで。
「謹慎は終わりだ。さっさと働け、人形」
……なんで貴方が看守服を着ているんですか。
「……あ? んだその間抜け面。折角俺様に似せて作った顔が勿体ねぇ」
なんで、なんで……‼︎
「なんで此処に居るんですか、ヤクザさん‼︎」
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