夢幻水滸伝
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第九十四話 会議のはじまりその十
「そこまで熱くしたお酒は」
「泉というと」
「我が日本の泉さんとは違います」
太宰は美奈代とは別だとだ、このことは否定した。
「あの方とは」
「違う泉さんなのね」
「明治から昭和の作家泉鏡花です」
「確か高野聖の」
「そうです、あの人はお酒を飲む時はです」
「日本酒を沸騰するまで熱して」
「そうして飲んでいました」
これは泉鏡花が極度の潔癖症だったからだ、食べるものはとかく徹底的に火を通して食べていたのだ。
「それで、です」
「泉燗となのね」
「そうしたお酒を呼びます」
「そのことがわかったわ、そして私が言った相性は」
「泉鏡花は湯豆腐が大好物でした」
「そこも同じなのね」
「そうなりますね。シェリルさんはどうも」
それが偶然でもというのだ。
「泉鏡花とシンクロしたそうです」
「何か不思議なことね、私は起きた時色々感じるけれど」
霊的なもの、超自然的なものをだ。このことは周りが言うにはシェリルがアボリジニーの血を引いているからだ。
「そしてこの世界ではね」
「余計にですね」
「感じるけれど」
「若しかしてです」
「泉鏡花の霊的なものを感じた」
「そうかも知れないですね」
「そうなのね。面白いわね」
シェリルは唐揚げを食べつつ太宰に応えた。
「それなら」
「そうですね、ただ」
「ただ。どうしたのかしら」
「泉鏡花はお刺身は食べませんでした」
「そうだったの」
「昔はよく生もので食中毒もありましたし」
冷凍技術もなかった、それでは食中毒が多いのも当然だ。
「ですから常にです」
「食べるものには火を通していたのね」
「飲みものも。それも徹底的に」
「そうして食べていたの」
「他にも色々な逸話があります」
「随分面白い人だったのね」
「そうです、ですから調べられてもです」
太宰もまた刺身を食べている、そうしつつシェリルに話すのだった。
「面白いかと」
「そうなのね」
「ですから」
それでというのだ。
「湯豆腐につきましても」
「熱燗と一緒に飲むことも」
「いいかと」
「わかったわ、ではね」
「それではですね」
「今度南洋の集まりでそうして飲んでみるわ」
清酒を沸騰するまで熱してからというのだ。
「湯豆腐でね」
「それがいいかと」
「この奈良はどうも寒いしな」
リーは奈良の気候について言及した、飲んでいて身体は温まっているがそれでも寒さは感じるのだ。
「それならな」
「熱燗もいいわね」
「同意だ、ただ私はな」
「貴方はね」
「酒は冷たいものがいい」
つまり普通でいいというのだ。
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