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八条学園騒動記

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第五百十三話 素晴らしきかな文学その七

「疑わずにな」
「奥さんはそんなことする人じゃないってね」
「ハンカチを見せられてもだ」
「ヤーゴがやってるんじゃないかって思って」
「言うことに耳を貸すなってな」
「舞台のオセローに言いたくなるわね」
「リア王にしてもいい加減にしろとな」
 舞台の上で役者が演じている彼にというのだ。
「言いたくなるな」
「そうなるわよね」
「これまでそんな人はいたか」
「いたでしょ、そりゃ」
 当然という口調でだ、ナンシーは洪童に答えた。
「オセローやリア王については」
「思わず言いたくなるな」
「これがハムレットやロミオとジュリエットだと違うけれど」
 こうした作品ならというのだ。
「別にね」
「これといってだな」
「ええ、オフェーリアがおかしくなっても」
 ハムレットに拒絶されたと思い込んでだ。
「そこまではね」
「思わないな」
「それがオセローとかだとね」
「思うな」
「マクベスは黙って観るけれど」 
 この作品の場合はというのだ。
「特にね」
「騒ぐことなくだな」
「その流れを観てると」
 それならというのだ。
「黙って最後までね」
「観るか」
「けれどオセローとかはいい加減にしろってね」
「読んでも言いたくなるな」
「あらすじ知っていても」
 例えそうであってもというのだ。
「言いたくなるわ」
「あまりにも愚かだからな」
「本当にね、馬鹿も馬鹿だから」
「人間あそこまでな」
「馬鹿にもなれるのね」
「そうだな、しかしそれをな」
 彼等の愚かさをとだ、洪童はここで難しい顔になって話した。
「嗤えないな」
「ああ、嘲笑うことはね」
「出来ないな」
「だってね、自分はどうかって言われたら」
「オセローやリア王の立場ならば」
「ああなるかも知れないからね」
「最初読んで思った」
 洪童は深刻な顔で述べた。
「オセローもリア王もな」
「自分もってよね」
「そう思った」
「それ私もよ、あの人達は確かにとんでもない馬鹿だけれど」
 それが事実であってもというのだ。
「それでもね」
「人間としてな」
「どうしてもね」
「自分もって思ってな」
「哂えないのよね」
「とてもな」
「それが深いのよね」
「わかりやすい」
 そうしたこともというのだ。
「読んですぐにわかる」
「そうそう、オセローもリア王もね」
「マクベスもそうだな」
「誰でもね」
「ああなる可能性はあるな」
「オセローみたいにね」
「信じている筈、信じないといけない人を疑ってな」
 例えそれが姦計によるものとしてもだ。 
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