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戦国異伝供書

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第三十九話 信濃守護その十一

「十の勝ちをいつもしておる」
「十割のうちの十ですか」
「正面から戦い何でもない様に勝っておる」
 あらゆる戦でそうしているというのだ。
「あれは見事じゃ、ただわしはな」
「お館様はいつも言っておられますな」
「うむ、戦は勝ってもな」
 それでもとだ、晴信は内藤に確かな声で答えた。
「六か七でな」
「よいとですな」
「言っておるな」
「勝ちも過ぎるとですな」
「そこでわしも含めて皆に驕りが生じる」
 そうなってしまうというのだ。
「誰にも負けぬ、絶対に勝つとな」
「自惚れてしまい」
「そしてじゃ」
 そのうえでというのだ。
「そこに隙が生じてな」
「肝心な時にですな」
「そこを衝かれてじゃ」
 驕りから生じた隙、それをというのだ。
「そうしてじゃ」
「負けてしまいますな」
「そうなるからじゃ」
 だからだというのだ。
「戦は十勝つよりもな」
「六か七ですな」
「その分死に傷付く者が多く得られるものは少ないが」
 それでもというのだ。
「肝心な時に驕らずそれでじゃ」
「勝つことが出来て」
「結果としてよい」
「だからそう言われていますな」
「そうじゃ、戦は」
 常にというのだ。
「勝ってもな」
「六か七ですな」
「それでよい」
 その勝ちでというのだ。
「あくまでな」
「そういうことですな」
「そうじゃ、しかしな」
「長尾殿はですな」
「常に十勝つ、しかし常に十勝つなぞじゃ」
 戦でというのだ。
「誰にも出来ぬ、しかしな」
「それをしているからこそ」
「わしはあの者も欲しいと思っておる」
 信長と共にというのだ。
「わしが天下を治める時の両腕としてな」
「まさにその立場で」
「そうじゃ」
 こう言うのだった。
「そう考えておる」
「左様でありますか」
「それでじゃが」
 晴信はさらに述べた。
「とにかく今は上田じゃ」
「あちらをですな」
「手に入れる為に源次郎を送ったしじゃ」
「源次郎殿で駄目ならば」
「次郎に言ってもらう」
 信繁、彼にというのだ。
「既に次郎には直接伝えてある」
「それではですな」
「その様にな、無論源次郎で大丈夫だと思うが」
 幸村を信頼している、それは事実だというのだ。 
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