八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる
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第二百二十七話 共演してその六
「正直暴力を振るうべきじゃないわ」
「それでもですね」
「抑えられないと思うわ、自分で」
「若し本人に会ったら」
「蝶々さんにしたことを思えばね」
「だから一発ですね」
「そう、一発よ」
そこに日菜子さんの迷いを見た、中尉に対する怒りと暴力に対する強い拒否反応をだ。その二つの間にいることを。
「一発だけよ」
「殴ってですか」
「終わりにするわ」
「そうですか」
「それで全部ね」
若しピンカートン中尉に会えばというのだ。
「その時はね」
「ギリギリなんですね」
「あたし的にね、あと蝶々さんって十八歳よね」
「十五歳で結婚してるんですよね」
作中を見ればだ。
「そうなんですよね」
「それで十八歳で自害するのよね」
「はい、お子さんと別れて」
「今あんな十八歳いないわよね」
「というか二十代でも」
それこそだ。
「あんな貫禄ある人ないですね」
「そうよね」
「僕達と同じ様な年齢とは」
とてもだ。
「思えないですね」
「そうよね」
「昔の人ってああだったのね」
「人生が短くて」
人間五十年と言われて長かった、子供の頃に急に死ぬことも多かったし成人しても結核や脚気で普通に死んだ、癌になっても助からなかった。だから人間の一生なんてそれこそ何時なくなるかわかっていなかった。もっとも人間が何時何処で死ぬかわかったものじゃないのは今もこれからも同じだろう。
「その中で、でしたね」
「生きていたからなのね」
「十代でも」
「あそこまでの貫禄だったんですね」
「そうなのね」
「当時十五歳で普通に結婚してますし」
今じゃ法的に許される十六歳でもまずない。
「それで子供もいてで」
「お母さんになるから」
「蝶々さんも普通だった、いや」
ここで僕は思いなおした、そのうえで日菜子さんに話した。
「あの人は武家の娘で」
「最初から覚悟があったから」
「その分しっかりしていて」
「あの貫禄があったのね」
「覚悟があったから」
それ故にだ。
「ああしてです」
「最後は自害したのね」
「そうだったんじゃないでしょうか」
「武家の娘でずっと覚悟していて」
「それで覚悟を決めてピンカートン中尉と結婚して」
「改宗をして」
「お子さんを育てたんじゃないでしょうか」
僕は日菜子さんにこう話した。
「全部覚悟を決めて」
「覚悟ね」
「腹を括っているからこそ」
武家の娘として常にだ。
「あの貫禄だったのかと。十代でも」
「ああ、日毬ちゃんもそうね」
「日毬ちゃん?」
「松尾日葵ちゃん。三年生の娘でね」
日菜子さんは僕に話してくれた。
「G組でね、お家は代々旗本の家で」
「武士の家ですか」
「何千石かの大旗本の家の娘さんで」
「大きな家ですね」
鬼平こと長谷川平蔵で四百石だ、何千石ともなると大旗本だ。
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