八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる
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第二百二十六話 マダム=バタフライその十
「それでもですね」
「脇役も存在しているからな」
「それで重要ですよね」
「ピンカートン中尉と同じだけな」
「むしろ中尉が」
今話しているこの人の方がだ。
「存在軽いですね」
「その性格も軽薄だがな」
「そうですよね、最初は聴かせどころもなかったっていいますし」
とかく否定的に扱われているしだ。
「あの人は」
「軽いな」
「だからスズキとですね」
「同じ位になっている」
「そうですよね」
「あれだけ恋人役が弱い作品も少ないだろう」
「本当に蝶々さんが中心にいて」
全体の七割は少なくともある、後の三割が他の役そしてオーケストラだろうか。演出もあるけれどとにかくヒロインの比重が大きな作品だ。
「中尉も」
「否定的に扱われていてな」
「存在も軽いですね」
「出番も第二幕ではない」
これはこの作品を三幕構成とした場合だ。
「第三幕で出てな」
「歌って逃げて」
「最後で戻って来るが」
「弱いですね」
「その変わり第二幕はスズキがいてだ」
「蝶々さんを支えていますね」
その第二幕でこの作品最大の聴かせどころある晴れた日がある。
「その役ですか」
「いい役を貰った」
井上さんは心から言った。
「まことにな」
「そうですよね、ただ蝶々さんじゃないんですね」
「我がクラスに抜群の美人がいてな」
「その人がですか」
「演じる、しかも合唱部所属でだ」
このこともあってというのだ。
「歌も上手だ」
「だからですか」
「その娘が蝶々さんだとクラス全体で決まった」
「そうだったんですか」
「私は蝶々さんではない」
井上さんははっきりと言い切った。
「彼女こそが相応しいとだ」
「井上さんも思われて」
「それで決まった」
「そうだったんですか」
「私も彼女の蝶々さん役に手を挙げた」
賛成のそれをというのだ。
「そうした」
「そうなんですね」
「とかく蝶々さんは特別な役だ」
どうも井上さんの蝶々さんへの思い入れはかなりのものだ、それが話をしていてもよくわかった。
「かなりでないとだ」
「演じられないですか」
「実際あの役は歌劇でもだ」
プッチーニのそれでもというのだ。
「多くの名ソプラノが歌っている」
「あの役を歌うと」
「見事にな、そうしてプリマドンナになっている、君も知っているな」
「はい、錚々たる顔触れの人達が」
その中にはマリア=カラスもいる。ただカラスはあの人の個性と蝶々さんのキャラクターが合わないと思う。日本の女の人というよりはギリシアの女神か女傑に思える。
「歌っていますね」
「そこまで重要な役だ」
「それで今もですか」
「こう話している、日本では特に人気だしな」
「ご当地の作品ですしね」
「日本を舞台にした歌劇は少ない」
欧州で出来たものだからだ、このことは仕方がない。
「だから余計に日本人の間ではな」
「人気がありますか」
「それでよく上演もされる」
「そういうことですね」
「最近は日本語の歌劇も多いがな」
井上さんはこの話もした。
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