| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第二百二十六話 マダム=バタフライその九

「だから伴侶となる人もな」
「日系人の可能性は少ないですか」
「他のルーツのアメリカ人の可能性が高い」
「そうなんですね」
「そしてだ」
 井上さんは僕にさらに話してくれた。
「お孫さん、ひ孫さんとな」
「徐々にですね」
「日本の血が薄くなっている可能性があってだ」
 日系人の数が少ないからだ。
「今だとな」
「七世か八世だと」
「もうどれだけ薄いか」
「それはですね」
「ほぼないかも知れない」
「それが現実ですね」
「白人になっているかも知れない」
 そこまで蝶々さんの血は薄くなっているかも知れないというのだ。
「祖先に日本人が一人いた」
「それ位ですか」
「アメリカではよくあることだろう」
 多くの人種が集まって形成されているこの国ではというのだ。
「もうな」
「そんな風ですか」
「そうだろう、ジューンもそうだな」
「そういえばあの娘も」
「色々なルーツが入っている」
 アメリカ人と一口に言ってもだ。
「アメリカだけあったな」
「それがアメリカ人ですね」
「だからだ」
 それ故にというのだ。
「蝶々さんの息子さんもな」
「混血していっていますか」
「欧州の貴族階級は平民階級とは混血しないというが」
 結婚はしないということだ、この辺り欧州は歴然とした階級社会だったということだ。今もその名残が強いのがあちらからの留学生の子達が言っている。
「しかしアメリカは違う」
「あの国は、ですね」
「誰でも相思相愛ならだ」
「結婚する国ですね」
「最近では白人と黒人の夫婦もいるしな」
「そういえばそうですね」
 勿論差別はまだあるにしてもだ。
「あそこはそうした国ですね」
「だから混血していってた」
 そうしてというのだ。
「日本人、蝶々さんの血はな」
「かなり薄まっていても不思議じゃないですか」
「むしろそうなっている思う方がだ」
 その方がというのだ。
「当然だ」
「色々な人種が存在している国だからこそ」
「そうだ、だがそうなっていてもな」
「それでもですか」
「蝶々さんのお子さん、そして子孫の人達にはな」
「幸せにですね」
「過ごしてもらいたいものだ」
 井上さんの言葉は切実だった。
「現実の人達でなくともな」
「そう思われますね」
「どうしてもな、それで私も舞台に出るが」
「何の役ですか?」
「スズキだ」
 この役だとだ、井上さんは僕に答えてくれた。
「この役だ」
「ああ、蝶々さんの侍女の」
 侍女であり親友でもある、蝶々さんを支える心優しくしっかりした人だ。
「あの人をですか」
「演じる、面白い役だな」
「あの作品はヒロインの存在が大きいですけれどね」
 言うまでもなく蝶々さんのだ、歌劇ではその為プリマドンナオペラつまりヒロインがとりわけ比重が大きな作品とされている。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧