戦国異伝供書
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第三十六話 越後の次男その十一
「戦は大丈夫じゃ、そしてじゃ」
「そして?」
「そしてといいますと」
「後は政で支える者がおれば」
それでというのだ。
「もう何の憂いもない」
「左様ですか」
「そこまでの方ですか」
「戦で負けることはない」
「そうした方ですか」
「しかも心も確かじゃ」
晴景は景虎のこのことにも言うのだった。
「まさに毘沙門天の化身の如きじゃ」
「ですな、確かに」
「あれだけ高潔な方はおられませぬ」
「ただ言われるだけではありませぬ」
「我等や民達への気遣いも違いまする」
「その虎千代を戦の場に出して戦わせれば」
どうなるかもだ。晴景は話した。
「当家は負けることはない」
「決して、ですな」
「殿は戦の場に出られませぬが」
「虎千代様がおられるなら」
「当家に憂いなしですな」
「うむ、あの者に働いてもらう。しかし」
ここでだ、晴景は暗い顔になってこうも言った。
「先程わしには過ぎた弟だと言ったな」
「はい、確かに」
「そう言われました」
「それが何か」
「何かありますか」
「うむ、あの者はわしを敬っておるが」
それははっきりとわかった、虎千代が自分を軽んじる様な者ではないことは会って話をしてよくわかることだ。
だがそれでもとだ、彼は言うのだ。
「しかしな」
「殿ご自身は、ですか」
「どう思われているか、かですか」
「わしはそれに相応しくない」
これが晴景の考えだった。
「あの者の兄としてな」
「殿、それは違いまする」
「殿は主として確かな方です」
「しかと政を執っておられます」
「それも常に」
「しかしこの身体じゃ」
弱いそれのことを言うのだ。
「ではな」
「虎千代様には過ぎた」
「そう言われますか」
「そうじゃ」
まだ言う晴景だった。
「だから申し訳なくも思う」
「そこまで思われずとも」
「虎千代様もそう思われていません」
「ならです」
「そこまで気に病まれることはありません」
「お気になさらずに」
「ならよいが」
晴景は家臣達の話を聞いて述べた、だが。
この時宇佐美は天下の話を聞いてこう言った。
「ふむ、甲斐にはか」
「嫡男で太郎殿がおられ」
「その太郎殿がじゃな」
「かなりの方で」
それでとだ、宇佐美に話す忍が言うのだった。
「この方が主になられれば」
「甲斐、そして武田家はじゃな」
「かなりのものになります、そして関東では」
「相模の北条家がか」
「日に日に大きくなっており」
そしてというのだ。
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