戦国異伝供書
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第三十六話 越後の次男その十
「それであ奴が満足するならな」
「それならですな」
「うむ、それもよいか」
「では」
「やがて虎千代が決めるであろうからな」
「我等の後ですな」
「そうなるわ」
為景は晴景に話した。
「では後はな」
「虎千代にですな」
「託そう」
為景は澄んだ声で述べた、そうしてだった。
暫くして世を去った、そうして晴景が主となってそのうえでだった。景虎は長尾家の者として本格的に動くこととなった。
景虎は当主となった晴景にこう言われた。
「一向一揆や揚北衆とじゃ」
「越後も一つになっておりませぬ」
「そうじゃ、だからじゃ」
晴景は景虎に述べた。
「お主に出てもらいたい」
「戦にですね」
「そうじゃ」
そしてと言うのだった。
「そうしてくれるか」
「わかりました」
即座にだ、景虎は兄に答えた。
「わたくしの出来ることならば」
「頼むぞ、わしはこの身体じゃ」
だからだというのだ。
「ここはじゃ」
「兄上に変わって」
「何かと頼む」
「はい、ただ」
「ただ。どうしたのじゃ」
「わたくしは降魔の戦はします」
それはというのだ。
「ですが見闇に人を殺めることも戦の場以外で人に刃を向けたりものを盗む様なそうした所業はです」
「決してか」
「しませぬ」
このことを誓って言うのだった。
「何があろうとも」
「わしがせよと言ってもか」
「そうして宜しいでしょうか」
「それが毘沙門天の御心ならな」
ならばとだ、晴景も景虎に答えた。
「お主の好きな様にせよ」
「有り難きお言葉、それでは」
「その様にな」
「そして降った者もです」
景虎はさらに言った。
「それで。です」
「命は奪わぬか」
「毘沙門天は魔を降しますが慈悲の御仏でもあります」
「魔を降しそれを正す御仏じゃな」
「ですから」
それ故にというのだ。
「わたくしもです」
「必ずじゃな」
「それはしませぬ」
こう言うのだった。
「兄上にも誓いまする」
「そのこともそなたに任せる」
晴景はまた答えた。
「ではな」
「はい、その様に」
景虎は晴景に確かな声で応えた。
「戦の場でもそうします」
「ではな」
晴景は景虎に笑顔で応えた、そして彼が自分の前から去った後で側近達に対してこんなことを言った。
「虎千代はわしには出来た弟じゃ」
「だからですか」
「あの方に戦をお任せする」
「そうされますか」
「うむ、虎千代がおればな」
それでと言うのだった。
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