戦国異伝供書
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第三十六話 越後の次男その二
「若しかすると当家は素晴らしい将を得たのやもな」
「それはいいことじゃな」
「全くじゃ」
「殿は虎千代様を出家させるおつもりというが」
「そのお考えはあらためるべきか」
「そうやも知れぬな」
「わしは出家させるべきではないと思う」
まさにとだ、宇佐美は言った。
「それよりもじゃ」
「やはり長尾家の将として戦ってもらい」
「この国から戦をなくす」
「長尾家が統一してじゃな」
「それがいいと思う」
まさにというのだ。
「だからわしは殿を説得しようと思う」
「それがよいのう」
「では我等もじゃ」
「殿を説得してみるか」
「そうしてみるか」
こうしたことも話した、だが。
長尾家の主であり虎千代の父ではある長尾為影は家臣達に対してそれはどうかという顔で述べるのだった。
「いや、それはじゃ」
「なりませぬか」
「ではあの方は出家ですか」
「そうされますか」
「そうじゃ」
これが為影の考えだった、面長で山羊の様な髭のある顔での言葉だ。
「長尾家の次の主は弥六郎でじゃ」
「そして、ですか」
「虎千代様は出家されて」
「僧侶として生きられる」
「そうなるのですね」
「あ奴は頭がよい」
為影も虎千代を見ていてわかっている、それでこう言えるのだ。
「だから坊主になってもな」
「よい」
「そう言われますか」
「そうじゃ、確かに武芸と兵法は天分の才があるが」
それでもというのだ。
「次男、それでじゃ」
「だからですか」
「あの方を出家させて」
「そのうえで、ですか」
「長尾家は弥六郎様とされますか」
「そうする」
こう言ってだ、為影は虎千代の出家を決めた。そして虎千代自身出家することについてこう言うのだった。
「毘沙門天にお仕え出来るなら」
「それならですか」
「よいのですか」
「出家されても」
「そうなのですね」
「はい」
澄んだ声での返事だった。
「確かに武芸の稽古は好きで兵法にも興味がありますが」
「それでもですか」
「毘沙門天にお仕えしたい」
「そう言われますか」
「私は幼い頃より毘沙門天を感じていました」
母に言われてからだ、それでなのだ。
だからだ、こう言ったのだった。
「それならいいです」
「しかしです」
その虎千代にだ、直江大和が言った。端正な顔をした青年である。
「私が思いますに」
「わたくしは、ですか」
「はい、やはりです」
「出家せずにですか」
「長尾家に止まられて」
そうしてというのだ。
「その武の才を活かすべきです」
「そう言われますか」
「何としても、虎千代様の武があれば」
それでというのだ。
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