八条学園騒動記
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第五百八話 ナンと海その六
「やっぱり家畜食べられたら困るわ」
「狼か」
「そう、狼はモンゴル人のご先祖様よ」
「蒼き狼と白き牝鹿だな」
「モンゴル人の祖先はそうなのよ」
元朝秘史の最初の文章である。
「それで私もこう言うけれど」
「ご先祖様でもか」
「そう、こっちも家畜がいないとね」
「生活に困るな」
「だからよ」
それが為にというのだ。
「私も家族もね」
「狼には気をつけているか」
「ただしご先祖様だから狼それに鹿はね」
の二種類の獣はというと。
「獲らないのよ」
「そうしているか」
「ええ、そうよ」
「信仰だな、それも」
「モンゴルってラマ教だけれどね」
この信仰は元朝からのことだ。
「そうしたシャーマニズムもあって」
「それで狼と鹿はか」
「そう、ご先祖様と思って」
それでというのだ。
「今もね」
「狩らないか」
「ええ、それに狼がいると」
それでというのだ。
「生態系も守られるしね」
「食物連鎖だな」
「大型の肉食動物もいないとね」
「草食動物ばかり増えてな」
「それで草原も荒れるから」
ナンは自分が住んでいる場所を話した。
「だからね」
「狼も必要ということだな」
「本当に狼もいないと」
それこそというのだ。
「駄目だからね」
「だから狩らないか」
「生態系は守る」
このことは絶対だというのだ。
「さもないと草原の草が食べ尽くされてね」
「草原が砂漠になるな」
「そうなったら復興に手間がかかるから」
手間だけでなく金も人手もだ、それが問題なのだ。
「それ位なら最初からよ」
「狼を狩らない方がいいか」
「そうよ、ただね」
「ただ、か」
「モンゴル人は馬を見たら」
自分達にとって足でありかけがえのない存在であるこの生きものはというと。
「絶対に捕まえてね」
「乗るか」
「もうそうしないと」
それこそというのだ。
「いられないから」
「習性か」
「地球で昔モンゴルに野生の馬いたのよ」
モウコノウマという種類だ。
「これがいなくなったのよ」
「狩っていないのにか」
「絶滅したのよ」
「全部家畜化したか」
「もう見付けたら捕まえてね」
そうしてというのだ。
「乗っていたら」
「一匹もいなくなったか」
「そうなのよ」
「そしてモンゴルに野生の馬はか」
まさにというのだ。
「いなくなったか」
「皆モンゴル人の足になったのよ」
「そういうことか」
「もう馬を見たら」
その時点でというのだ。
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