八条学園騒動記
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第五百七話 無抵抗その九
「その心を見るとな」
「そうよね」
「野生のステラーカイギュウも天敵がいない場所にいる」
「いたら絶対に食べられるから」
「そうなるからな、さっき話した通りにな」
「だからよね」
だからシャチやホッキョクグマ等がいない海に棲息しているのだ、逆にいればいる海では食べ尽くされたということか。
「のどかなのね」
「食べることや寝ることばかり考えてな」
「それで済んだら」
「本当にな」
「最高の贅沢よね」
「悩みがない」
ダンは確かな声で言った。
「そうならな」
「これ以上いいことはないわね」
「王家の方々はいつも憂いておられる」
ダンは琉球王家、自国の国家元首の家のことを深く困った顔と共に話した。
「我が国のことをな」
「繁栄して欲しい、無事であって欲しいって」
「そう願っておられる」
「だからよね」
「常に憂いておられる」
「王様って安穏と出来ないのね」
「祭事はその為にある」
元々政治と祭事は同じだった、やがて国家元首はそちらのみを行う様になったのだ。これはこの時代では連合もエウロパも同じだ。
「琉球の繁栄と平和を願われてな」
「そう思うとね」
「まことにな」
まさにというのだ。
「あの方々の憂いは大きく深い」
「そうよね」
「そう思うとカイギュウみたいに暮らせたら」
「いいわね」
「食うことと寝ることだけで済んだら」
考えることがだ。
「それで幸せだ、しかしそう考えられるのもな」
「安全だからよね」
「本当に近くにシャチでもいれば」
その時はというのだ。
「どれだけ危ないか」
「そうよね。しかも逃げたり戦ったりもしないから」
「もう終わりだ、海の底に潜ってもな」
「相手がシャチだとね」
「意味はない」
そこに潜っても追いかけてくるだけだ、それでシャチが止まる筈がない。
「しかもステラーカイギュウは傷ついた仲間を助ける」
「そうした習性があるから」
「シャチに仲間が襲われるとな」
その時はというのだ。
「本当にな」
「仲間を助けようとして集まってきて」
「シャチも群れている」
一匹だけでも強力だが群れを為している、頭脳と共にシャチの大きな武器の一つだ。だからこそ海のギャングとまで呼ばれているのだ。
「それならな」
「全部食べられて終わりね」
「そうなるからな」
「だから安全と限らなかったら」
「ステラーカイギュウもああは考えない」
こうナンに話した。
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