八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第二百二十話 運動会が終わってその十二
「高級とはいきませんが」
「そうなんですね」
「いいお肉を選んで来まして」
そうしてというのだ。
「使っています」
「そうなんですね」
「ステーキはともかくとしましてすき焼きは、です」
「それなりのお肉でないと、ですね」
「味がよくないので」
「それあるんですね」
「はい、すき焼きはお肉を選びます」
小野さんは僕にこう言い切った。
「若し悪いお肉だとです」
「味がよくないですか」
「どうしても。ですから」
「小野さんもこだわっておられるんですね」
「そうして選んで、です」
「買ってきて調理してくれたんですね」
「そうです、それだけに美味しいと思いますので」
実際小野さんの腕はかなりのものだ、何でもかつては八条ホテル北海道でチーフだったとのことだ。
「お召し上がりください」
「それじゃあ」
僕も頷いてだ、そうしてだった。
実際にすき焼きを皆と一緒に食べた、すると皆美味しいと言ってどんどん食べだした。その中でだった。
ふとダオさんが言った。
「それはそうとして」
「何かな」
「何ですき焼きって言うの?」
僕にその名前について聞いてきた。
「好きってこと?」
「あっ、元々は鍬焼きなんだ」
「農具の」
「そう、鍬の上で牛肉を焼いてね」
「それがはじまりだったの」
「どうして鍋になったのかわからないけれど」
この辺りは僕も知らない。
「それがはじまりでね」
「すき焼きって名前になったのね」
「そうなんだ、それで明治維新の頃からね」
「食べる様になったのね」
「それまでお肉はあれこれ理由付けて食べてたけれど」
猪をお薬とか言ってだ。
「おおっぴらに食べてなかったんだ」
「薩摩では豚を食べていたがな」
井上さんがこの話をしてきた。
「それでもだな」
「日本全体では牛肉や豚肉はあまり、でしたね」
「うむ、徳川慶喜公が豚肉が好きでな」
「豚一殿って大奥で言われてどうかってなってましたね」
「当時の日本はあくまで魚がメインだ」
「食べてても珍味とかでおおっぴらでなくて」
それでだ。
「近江牛にしてもな」
「メジャーじゃなかったですね」
「井伊直弼公が好きだった様だが」
その彦根藩主にして大老だった人だ、安政の大獄のことでとかく歴史的に評判の悪い人だが生前からだったらしい。
「メジャーではなくな」
「明治維新からでしたね」
「そうだった」
「だからすき焼きといえば」
「文明開化の象徴だった」
「そうでしたね」
「牛肉はその時からだ」
日本で本格的に食べられる様になったというのだ。
「豚肉もそうだな」
「本当にその時からでしたね」
「そうだった、しかしな」
「しかしといいますと」
「これが羊になるとだ」
こちらのお肉はというと。
「あまりだ」
「明治維新でもですね」
「食べられていなかった」
そうだったというのだ。
ページ上へ戻る