八条学園騒動記
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第五百五話 水族館と動物園その四
「ないからな」
「まあ普通はないわよね」
「経営は上々でもな」
「設備にお金かけてね」
「維持費もあるだろ」
「あと中にいる生きものをちゃんと飼育して」
「働いている人にも給料払うだろ」
つまり人件費だ。
「交通費とか寮とかもな」
「用意するから」
「儲けていてもな」
「それでもってことね」
「あちこちに金がかかるんだよ」
「それで残るお金は」
「あまりないんだよ」
これが現実だというのだ。
「確かにどんどん大きくしていくことも出来るさ」
「経営がよかったら」
「けれどな、恐竜を入れられるまでに大きくすることはな」
「難しいのね」
「俺の家の水族館はかなり先か」
ダンは多少遠い目になってナンに答えた。
「本当にな」
「そういうものなのね」
「ああ、もっと先だよ」
「ううん、けれど恐竜は将来は」
「欲しいとは思ってるさ」
現実にというのだ。
「俺だってな、父さんや母さんも言ってるさ。特に館長の祖父ちゃんがな」
「お祖父さんがなの」
「特に言ってるさ、もう引退しているひい祖父ちゃんも九十でな」
連合の平均寿命まであと十年だ。
「言ってるさ」
「そうなのね」
「ああ、けれどな」
それでもというのだ。
「まだまだな」
「それは夢なのね」
「そうなんだよ」
今の時点ではというのだ。
「本当にまだまだ先だな」
「馬とは違うわね」
ナンはダンの話に考える顔になって応えた。
「本当に」
「俺もそう思う」
「馬はモンゴルだとね」
「足だな」
「そして友達よ」
モンゴル人にとってはそうしたものだというのだ。
「もう絶対のものだから」
「それでか」
「そう、私だって何頭も一緒に飼ってるから」
「モンゴル人にとっては普通か」
「馬に乗ってないモンゴル人は」
それは何かというと。
「街に住んでる人よ」
「遊牧民じゃないか」
「私は街に住んでなかったから」
かつてのナンはそうだった、高校に進学するまで彼女は大平原の中で遊牧をして暮らしていたのだ。
「家族でね」
「ゲルの中で暮らしていたんだな」
「あちこち移動しながらね」
「そうだったんだな」
「そう、いい暮らしだったわよ」
「俺にはそう言われてもな」
水族館、つまり海の傍で暮らしていたダンにとってはだ。
「どうもな」
「想像出来ない世界ね」
「実際にな」
その通りだというのだ。
「本当にな」
「まあそうでしょうね」
ナンもその言葉にはすぐに納得して頷いた。
「お互いに」
「そうだな、しかしイッカクには興味があるな」
「ええ」
その通りだとだ、ナンはすぐに答えた。
「実際にね」
「ならな」
「今日の放課後ね」
「観に行くか」
「そうするわ」
「じゃあ俺が案内する」
ここまで聞いてだ、ダンはナンに申し出た。
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