前世の知識があるベル君が竜具で頑張る話
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めがみ
同日午前10時。
ベルはオラリオを探索していた。
オラリオに来てギルドやダンジョンには行くが、それ以外にはあまり行かないのだ。
なので地図を片手に探索を始めた。
「わー。こうして見るとオラリオって広いんだなぁ…」
フードをかぶり辺りを見回す。
バベルの前まで来た物の、どこへ向かえばいいかわからないのだ。
地図を見ながらストリートの方向を確認する。
唐突に、何者かがベルの背中を蹴飛ばした。
「かはっ…!?」
「よう。アーデ。まさか生きてたとはなぁ」
ベルが後ろを向くと、熊の獣人が立っていた。
「あん? なんだ人違い…いや…お前アーデと組んでた奴じゃねぇか!」
「お前は……カヌゥ」
ベルが立ち上がり、フードを脱ぐ。
「がははは! お前にゃ感謝してるぜチビ! お前のお陰でアーデの奴をハメられたからなぁ!」
「そうですか。じゃぁこれで」
ベルが歩きだそうとすると、カヌゥがベルの肩に手を置いた。
「まぁ待て。さっきは蹴って悪かった。詫びとして…」
その手をベルが払う。
「僕に触れるな。屑が」
そのまま歩いていくベルの後ろでカヌゥが剣を抜いた。
「調子に乗るなよガキィィィィィ!」
振り下ろされた大剣を、ベルは後ろを見る事なく避けた。
「いいんですかこんな所で剣を抜いて」
「あぁ? 俺は生意気なガキをしつけてるだけだぜ」
「憐れな…。理性のない獣も同じか…ソーマめ…酒の供給をいきなり断ったな…?」
それに激昂したようにカヌゥが剣を振り下ろす。
さらには控えていた二人もそれぞれの得物を抜いた。
三人がかりでベルを襲う。
が、ベルはそれを舞うように避ける。
「モンスターですら連携するぞ。お前らはモンスター以下だ」
連携の取れていない攻撃なぞベルには簡単に避けられる。
やがて、カヌゥが大きく剣を振り上げた。
「がら空きだよ」
ベルがカヌゥの股間を蹴りあげた。
「じゃぁね。もう二度と僕の前に現れるな」
ベルは遠くからギルド職員が走ってくるのを確認すると、脚力に物を言わせて駆け出した。
ベルがメインストリートの一つを歩いていると、またもや肩を叩かれた。
後ろを向くと、人差し指がベルの頬をついた。
「うふ。引っ掛かったわね」
ベルの後ろに居たのは、フードとマントを被った女性だった。
フードから覗く銀髪。
そしてその顔立ちは究極的に整っていた。
「ゅ? 神様?」
「ええ。そうよ。さっきの広場での戦い、見てたわ。かっこよかったわよ」
「ありがとうございます」
ペコリ、とベルがお辞儀をする。
「そんなに畏まらなくてもいいわ」
「わかりました」
女神がベルの手から地図を取り上げた。
「オラリオは初めてかしら坊や」
「一月前にオラリオに来たんですけど、ダンジョンばかりでして。それで今日は街を見て回ろうと思ったんです」
「ふーん……。案内してあげましょうか?」
「いいんですか?」
「ええ。オラリオは長いもの」
女神がベルの手を取る。
「とっても頼りになる、男の手をしているのね」
「はい! ファミリアの皆さんに恥じないような冒険者でいたいですから!」
「いい笑顔だわ。欲しくなっちゃうくらい」
「ゅ?」
「なんでもないわ。さ、行きましょう」
女神がベルの手をとる。
「あの、女神様。お名前を伺ってもいいですか?」
「私? 私の名前はフラウよ」
「婦人……? わかりましたフラウ様」
「あら、私の名前になにか言いたい事があるのかしら?」
「いえ。女性には秘密が付き物とおじいちゃんから教わりましたから」
「あら、紳士なのね」
フラウと名乗った女神がベルを連れていったのはカフェだった。
「ちょうどお昼だし、食べて行きましょう」
「はい」
そこは神が趣味で経営している場所だ。
二人が注文を決める。
注文を取りに来たのはヒューマンの男性だった。
「ランチセットを二つ。コーヒーで頼むわ」
「は、はひっ!」
男はフラウを見て顔を赤くした。
「モテますね。フラウ様」
「こんなのただの見てくれよ」
「フラウ様は僕が見たなかで一番の美神ですよ。きっとそれは内面の美しさの現れです」
「口が上手いのね、貴方」
「女性を褒められないのは紳士失格ですから」
ふんすっ、とドヤ顔をするベルの頭をワシャワシャ撫でるフラウ。
「あぅあぅあぅ…」
「可愛い紳士ね」
二人が世間話をしていると、注文が届いた。
パスタをフォークに巻き付けて頬張る。
「おいひいれふ」
「気に入ってくれてよかったわ」
フラウは目の前でもきゅもきゅとパスタを頬張るウサギを眺めていた。
「ぅゆ?」
「なんでもないわ」
ベルが自分の分を食べ終えた後、悪戯心でフラウは自分のフォークに巻き付けたパスタをベルにさしだした。
「はーぐ……あぐあぐ………ゅ?」
コテンと首を傾げるベル。
「少し多いの。私の分の残りも食べてちょうだい」
「ゅ!」
フラウはベルに餌付けしながら、じっくりとベルを観察していた。
昼食を終え、ベルが代金を払う事を押し切った後は、オラリオのシンボルを順に廻って行った。
そして、ある区画の前でフラウが足を止めた。
「ここから暫く行くと歓楽街に出るわ」
「歓楽街ですか?」
「貴方は行ってはダメよ」
「たぶんリヴェリアさんが許しませんね」
「そう。いいファミリアね」
フラウがベルの手を引いて踵を返す。
その頃には、もういい時間になっていた。
「そろそろお別れねベル」
「そうですねフラウ様」
「楽しかったわ。いつまでもこうしていたいくらい」
「大丈夫ですよ! 同じオラリオにすんでますし、またいつか会えます」
ベルはフラウを見上げ、笑顔で言った。
「そうね。その通りよ。また会いましょうベル」
フラウは身を屈めると、ベルの額に口付けをして、去っていった。
side in
「という事がありました」
膝の上に乗せられ、今日1日の事を話し終えた。
最後にフラウ様にキスされたのは伏せて、話せるだけをリヴェリアさんに話した。
「そうか…その女神についてどう思う?」
「親切な方でしたよ?」
「それだけか?」
「はい……」
リヴェリアさんはフラウ様を知ってるのかな?
「フラウ様とお知り合いですか?」
「一方的に知っているだけだ」
「そうですか」
「もう行って良いぞ」
「はい」
リヴェリアさんの膝から降りて部屋へ向かう。
「うーん……フラウ様ってやっぱりあの女神なんだろうか…」
フラウという言葉には婦人という意味がある。
そしてそれを語源として持つ女神を一柱だけ知っている。
美の女神フレイヤ。
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