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吸血鬼になったエミヤ

作者:炎の剣製
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007話 大浴場での出来事

 
前書き
更新します。 

 




翌日の朝、私とタマモはいつもどおり四時に起きて日課であるリハビリ運動を行っていると、


―――キャアァァァァァーーーーーっ!!


なにやら心臓が弱い人なら昇天しかねないほどの悲鳴が寮内に鳴り響いた。
…っていうか魔法処理してあるこの部屋にまで聞こえてくるなんてどんだけ…?

「なにかあったのかな…?」
「さぁ…なんでしょうか? 少し見てまいりますね」

タマモが外に出ていき、なにがあったのか聞きに行った。
そうそうないだろうが泥棒とかが侵入しているのではないだろうか? あるいは魔法関係…?
いささか不安に感じているとタマモが呆れた顔をして帰ってきた。
それで内容を聞いてみると、

「もう、聞いてくださいよぉ~。例のちびナギがアスナのベッドに潜り込んでいたとか…。理由は『お姉ちゃんと一緒に寝ていた』とか、どんだけシスコンかっつうの!」

タマモの毒舌は朝から絶好調である。
しかし、そうか。まだ姉離れできない歳で無意識にアスナのベッドに潜り込んで朝の悲鳴に繋がるわけね。お気の毒に…。
でも私たちはすぐにそれは忘れることにしていつも通りの作業に戻るのだった。




◆◇―――――――――◇◆




ネギ先生赴任二日目の英語の授業、事件は起こった。
最初はまじめにページを開いて英文を読んでいるところは先生然としたところだったが英訳のところで何の脈絡もなくアスナが指名されて、そこから頓挫し始めた。
アスナは必死に訳そうと頑張っているが、結局できずにいてネギ先生の悪意なしの一撃『アスナさんは英語が駄目なんですね』が炸裂。
私なら甘んじて我慢できるだろうが…自覚のない口撃はアスナに大ダメージを与え、そこから委員長が繋ぐように他の教科も駄目だという事が露呈されてしまい、思わずアスナはネギ先生に掴みかかったが、ふと先生がクシャミをした途端に突風が巻き起こりアスナの服は盛大に吹き飛ばされた。…なんでさ?

…うん、私だったらアスナの気持ちがわかるかも。
しかし膨大な魔力を有しているとはいえ、ただのクシャミだけで私の魔法の知識に該当するだろう『風花 武装解除』もどきを発動するのは、どうなのだろう?
アスナがあまりに惨めで見ていられない。



今日の授業が終了しエヴァ達と共にリハビリ施設に向かいながら話し合いをしていた。

「ねぇエヴァ。今日の授業でネギ先生が無意識に使ったのって『風花・武装解除』でしょ?」
「まぁ、そうなるだろうな。ナギ譲りの膨大な魔力を有しているとはいえ、それをまったく扱いきれていない。あっちでどんな事を学んできたのか本当に疑問に思うぞ?」
「ま、所詮魔法学校もあのお子チャマ先生には物足りなかったのでしょうね。もっとビシバシとしごいてからこっちに送って来いってものです」
「仕方がありません。魔法学校は最低限のマナーと魔法を教えることしかしませんから。そしてそこから修行して力をつけていくのが基本です。ですがネギ先生には繰り返すようですが物足りない内容だったのでしょう」

茶々丸の意見に全員は私も含めて頷く。

「魔力の暴走かぁ…。それじゃ魔法学校中退のナギは一体どんな事をしたらあんな強くなったのか疑問に思っちゃうかも…」
「奴は膨大な魔力を持っていたのにアンチョコ帳を使っていたからな。シホに会う前まで色々なところで強くなれるような魔道書を読み漁ったんだろう」
「まぁ確かに。私はナギと赤き翼で会う前は青山家で詠春と暮らしていたからなぁ…」
「なに? そうなのか?」
「うん。この世界に来たのが運良く詠春の実家の近くで記憶喪失ということを話すと、一時引き取ってくれたんだ。そこで詠春と一緒に神鳴流もある程度に習ったっけ…」
「むっ…神鳴流も使えるのか?」
「たいていの技、体術、符術、奥義は会得したと思うよ。結局二流止まりだけど」
「投影とその他の魔術にこっちの魔法、様々な武術、剣術、槍術、弓術、吸血鬼の力、いまだ私の理解の及ばない錬鉄魔法という独自の固有技法…そして神鳴流と。
やけに引き出しが多いな。それでよく使いどころが迷わないな?」
「よく言われたけど、結局私はどこまでも二流止まりだったから量は多いほうがいいし、なにより“使えるものはなんでも使え”が私の基本。
だから、どんなものだろうと私にとってはただの手段の一つでしかないから」
「なるほど…。では誇りとかはあまりないというところか?」
「そんな訳じゃないけど、そうでもしないと生き残れないという本能もあったから二流なりにいろいろと手を出していった感じかな」
「シホ様はとっても努力家ですから~♪」

タマモがニコニコ顔でそう言うので恥ずかしさを紛らわすために本題に戻ることにした。

「とにかく。今現在のネギ先生は魔力総量に関しては全盛期のエヴァ並みにはあるけど、それを扱う術がまだなっていないから制御しきれず無意識に暴走して、それがネギ先生の場合クシャミとなって武装解除現象を起こしていると…そういうことでオッケー?」
「その通りだ。だからお前等も気をつけておけ」
「それはお互い様でしょうに…。私に関しては仮の姿が解けてしまう可能性があるからいっそう気をつけなければいけません」
「ですね。アヤメさん」


そんな会話が繰り広げられている中、学園ではまたネギが惚れ薬で一騒動を起こしているが、ここのメンバーにはいたって関係ない話なのであった。




◆◇―――――――――◇◆




…さらに翌日。
タカミチとの立会いでシホは図書室までやってきて、そこの扉のあまりの壊れ具合に頭を悩ませていた。

「どうやったらここまで見事に壊すことができるの…?」
「さぁ…? それで、直りそうかい、姉さん?」
「どうだろう? 螺子もすべてひん曲がっているし螺子穴もボロボロ、蝶番も同じくあまりの破損で完全にお釈迦、扉自体もどうやったらここまでへこませたのか不思議に思うわ。
見た感じ足跡がくっきりと残っているから相当の蹴りを当てたみたいだけど、魔力の残滓は残っていないし純粋な蹴りでこれを吹っ飛ばしたわけで…」
「つまり…?」
「うん。結論から言うと業者さんに頼むしかないわね。私が修繕してもいいなら魔術行使してもいいけど…」
「いや、姉さんの手を煩わせることはしないよ。しかたがない…新田先生には業者に頼んでおくと伝えておくよ」
「お願いね」

私はタカミチと別れるとそのまま教室まで向かっていた。
その道中、アスナがこっそりと図書室の方を見ていたけどなにかあったのかな?

「アスナ、なにをしているの…?」
「あっ、シホ…えっと、高畑先生と何話していたの?」
「ん? 何者かに壊された扉に関してだけど。私が直せるかもと行ってみたけど、調べた結果、螺子や蝶番といった諸々のパーツがすべてお釈迦になっていて扉自体も歪んでいたから私じゃ無理だと判断して業者に頼むしかないって話にまとまったの…って、なんでそんなに暗い顔しているの?」
「な、なんでもないよー? うん…」
「…? そう、ならいいけど…」

シホの背後でアスナは手を合わせて「ごめんなさい!」のポーズを取っていたのにはシホは気づかなかった。




◆◇―――――――――◇◆




数日してやっとネギ先生が授業で落ち着いてやっていける程度になった頃、私とタマモはまたリハビリを続けていた。
それも今日は学生寮にある本格的なリハビリ施設で、だ。
今はリハビリ施設内の長い廊下(50mコース)を壁際にある支えで十週は歩く作業に励んでいる。
一見地味だが足が不自由なものにとってこの行為は結構地味に響いてくる。
吸血鬼の体だというのに関係なく。

「しかし、こうもリハビリが大変なものだとは、思っていなかったわね…っと!」
「頑張ってください、シホ様。今日のノルマ達成まであと二週です!」
「あと、二週…気を引き締めないとね」

と、そこに「ふふ…励んでいるな」という声がかかってきた。
声色からしてエヴァあたりか…?

「エヴァ?…どうしたの、わざわざ学生寮まで来て」
「なに、ちょっと我が家の風呂の調子が悪くてな。現在茶々丸とハカセの二人で急ピッチの作業で直しているところなんだ。だからわざわざこっちまで来てやったというところだ」
「葉加瀬さんに悪くない…?」
「それは大丈夫だ。すぐに終わるといっていたし、それに終わったら入っていっていいとも言ってあるからな」
「ならいいけど…」
「それより今はなにをしているんだ…?」
「今、シホ様はこの上級コースの50mを十週していまして、後二週でノルマをクリアです。このタマモ、シホ様が頑張っているお姿をただただ見届けることしかできず残念無念です~…」

タマモが演技でもしているかのように「およよー…」と項垂れている。
けど『タマモが応援しているから私も頑張れるんだよ?』ということを伝えると「えへへー」と笑みを浮かべて喜んでいるのでよし。

「タマモの三文芝居はこの際放っておくとして…しかし、吸血鬼の体だというのにやけに治りが悪いな。いや、いい方なのか…?」
「聞かないでよ? 体が不自由な吸血鬼にあったことはないんだから」
「うむ、私もだ。そう考えると治りはいい方だと考えてもいいのだな」
「そうだろうね。最近はやっと支え無しで何歩か歩けるようになったから…まったく自転車の練習でも無しに」

そうこう話しているうちにいつの間にか残りノルマを達成していたわけで今日はリハビリ終了となった。
そこにエヴァが「ちょうどいい。お前等も大浴場に入っていったらどうだ? ここからなら近いしな」という提案に、少しとある理由で引いたけど、タマモも楽しそうにしていることだしせっかくだから提案を受けることにした。







大浴場の更衣室に着くとすでに2-Aの半分以上のメンバーが服を脱ぎだしていた。
それでシホもタマモに“ある場所”を隠してもらいながら服を脱いでいった。
シホにとってあまり見られたくない場所があるからだ。

「…ん? どうしたシホ?」
「あ…エヴァ。うん、ちょっと見られたくないところがあってね」
「なにやら背中を隠しているようだが、なにかあるのか?」
「これはたとえエヴァンジェリンでも見せることはできませんよ?」
「なにやら訳ありみたいだな…。わかった。今は見ないでおいてやろう」
「ありがとう…」

エヴァはなにかを察したのかすぐにいつも通りに接してくれたためにシホ達は心遣いに感謝した。
それですぐにシホはタオルを体に巻きタマモに所謂お姫様抱っこをされながら大浴場に入っていった。
そこでなにやら騒動が起こっていることに気づいたシホ達は何事かと尋ねると、綾瀬夕映が答えてくれた。
曰く、胸の大きい人がネギ先生をもらえる=部屋に連れて行けるとのこと。

「なにそれ…」
「まぁ、いつものお祭り騒ぎだと思えばいいです」
「納得したわ」
「それよりシホの裸は始めてみるが…ムムムッ! やはり私よりかなり大きいネ!」
「それに肌もきれいだね。全体的には円と同じくらいかな?」
「ちょ、美砂!?」
「そうだにぇー。これは身体測定が楽しみだね」
「桜子まで…ごめんね、シホさん」
「別にいいけど…」

その後に水着姿のアスナがネギを押し倒したりと突然胸が(シホから見たら水着の部分だが…)膨らんで破裂するなどと騒動があったりしたが、シホとタマモは普通に体を洗っていたのだけれど、

「うがぁーーーーっ!! このネギ坊主!!」
「ごめんなさーーーい!!って、うわ!?」
「わっ!?」
「シホ様!?」

アスナに追いかけられるネギが運悪く石鹸で滑ってシホ達の場所に突っ込んでしまった。
しかもちょうどシホの背中の上に馬乗りの形になってしまいネギは慌てて下りようとしたが、

「え、エミヤさん…こ、これは…!?」
「え…? あっ!?」
『!?』

全員は目撃してしまった。
シホの背中の肩甲骨辺りにある左右二箇所のとても普通の事故、いや大惨事でも中々つかないであろう、そうまるでなにかの機材で何度も背中を抉り削られたような深い、深い傷跡。


―――瞬間、シホの脳裏にまたも嫌な光景が蘇る。
いくつもの削る道具を持ちシホの背中に“あるもの”を埋め込む、或いは移植しようとしている惨状を…!


「あぁあ…っ! 痛い痛い痛い痛い痛い痛い…ッ!!」
「ッ!? いけないです、誰かすぐに私の荷物のところから小瓶の薬を持ってきて! 早く!!」
「は、はいな!!」

体を盛大に震わせ涙を流し体を抱きしめて“痛い”を連呼して苦しむシホの姿を見て、薬を取りに行った和泉亜子以外全員言葉を失った。
ここに編入してきてみんなが気を遣ってか一度も症状が出ていなかったから、朝倉の話を聞いていた一同はまさかここまでのものとは露も知らず呆然と眺めることしかできないでいた。
そして和泉亜子が薬を必死にシホを宥めているタマモに渡すとシホに躊躇なく口移しで薬を飲ませた。
普通なら黄色い声も上がるものだが今ばかりはそんな考えも浮かばない。
全員はシホの深い抉り傷と症状に目を見開いていたから。
しばらくして薬が効いたのかシホはその場で眠りについた…。

「お先に失礼します…お騒がせしてしまってすみませんでした。シホ様の代わりに謝ります」

低い声でタマモはシホの背中を皆に見せないように足早に浴場から出て行った。
当然エヴァもすぐに後を追ったのは言うまでもない。
残された一同はどうしていいか分からず立ち尽くすしかできないでいた。




◆◇―――――――――◇◆




すぐに自分たちの寮室にシホを運んだタマモはシホの着替えとフラッシュバックによる熱の発症を感じ、氷枕やその他の道具を用意していた。
一方エヴァは高畑をすぐに呼びつけて、さらに厄介なことにならないように部屋の前に大きく【面会謝絶】という張り紙を張って他の生徒の入室を禁止した。


高畑がシホ達の部屋の前に来た時にはやはりというか面会謝絶の張り紙で立ち往生しているネギと生徒達がとても心配そうに部屋の扉を眺めていた。
それで高畑は気まずい雰囲気の中、部屋に入ろうとして、

「あ、あの…タカミチ…」
「すまないネギ君。今は話に付き合っていられるときじゃない。後で経過を報告するから今は我慢してくれ。それに君達もシホ君が心配だろうが同じくおとなしく部屋に戻りなさい」
『………はい』

バタンッ、と扉が閉められ全員は名残惜しそうに一人、また一人と少しずつ部屋へと戻っていった。

帰りの道中、ネギはアスナと木乃香に、

「あの、アスナさんにこのかさん。エミヤさんは一体なにがあったんですか…?」
「…シホのこと? わからない。「わからないって…」私達もなにも聞いていないのよ。あんたが来る少し前の三学期初めにシホは転校してきたんだけど、編入前に朝倉が過去のことについて聞いたらさっきほどじゃないけど苦しむ仕草をしたらしいから」
「だからな、ネギ君。シホの事はみんな気を使って今までずっと過去については聞かんようにしとったんよ…」
「だからあんたもシホの事は触れないようにね。特に今日のあの酷い傷跡に関しては絶対…」
「はい…。それと明日必ずエミヤさんには謝っておきます」
「そうしときなさい」
「そやな」



だが次の日には、シホとタマモは二人そろって休んでしまい、エヴァも授業を即効ボイコットして気まずい雰囲気が教室を包んでいたそうだ。
特に同じく背中に傷跡がある和泉亜子は深く共感してしまい、昨夜は自分のことも一緒に思い出して同室の佐々木まき絵に慰められていたらしいとのこと。

だけど午後になってタマモだけ登校してきてようやく容態も安定してきたという報告に一同は胸を撫で下ろした。

「それと、出る前にシホ様から伝言を受けました。
『変なものを見せちゃってごめんなさい。そして不快な思いもさせてごめんなさい。明日にはちゃんと登校するから…だから気にしないでとは言わないけど無理な思いだけはしないでね』
…とのことです。だから皆さんもあまり気負いせずまたいつも通りシホ様に接してくださると私はもちろん嬉しいですしシホ様もきっと喜ばれます」

タマモの言葉が皆にしっかりと通ったのかほとんどの者がシホの安否に安堵し、その心遣いに深く感銘した。
その日の終わりにみんなが総出ではないがシホ達の部屋に訪れた。
特に鳴滝姉妹はシホに泣きついてしまい、和泉亜子には「なにかあったら相談して…」と涙ながらに迫られた。
後から来た居残り授業組みも来て大騒ぎになりネギには深く謝られ、シホはかなり参ってしまったとここに追記する。


 
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